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【インタビュー:多文化をチカラに㉖】小林アルタンさん(飲食店店長)2023.10.27 | 

My Eyes Tokyoの協力のもと、日本で活躍する外国にルーツを持つ方々へのインタビューを紹介していきます。
https://www.myeyestokyo.jp/61729

「ありがとう」を言うたびに幸せになる。
お客さんに、この街に、心からの「ありがとう」を伝えたいです。

ある日、ふとFacebookのフィードを眺めていたら、大変興味深い投稿がありました。横浜にある”シルクロード料理”レストランを訪ねた、かつて私たちが開催したイベントのご参加者の手記です。このお店のことをグーグルで調べてみると、中国の新疆ウイグル自治区のお料理を提供しているとのこと。きっと日本でも珍しいであろう、新疆の食文化を提供する場と聞き、間近に控えていた横浜でのミーティングの日に訪ねることにしました。

小雨降る9月のある日、傘も持たずに桜木町から横浜を経由して相鉄線の”三ツ境(みつきょう)”へ。駅から歩くこと約5分。緑色の屋根がかわいらしいこじんまりとしたお店のドアを開けると、ちょっぴりスパイシーな香りが私たちの鼻腔をくすぐります。席に座り、店員さんにお勧めのメニューを聞くと”ラグメン”とのこと。店で粉から作り、寝かせては延ばすという作業を何度も繰り返した末に完成する、コシの強いこだわりの麺。これまで多くのエスニックレストランを訪ねてきたつもりの私たちMy Eyes Tokyoですが、未知の味にドキドキしながら注文。しばらくして現れた、野菜と羊肉をドカンと乗せた麺がたまらなく美味しく、一気に完食しました。

たっぷりの野菜と羊肉を乗せたラグメン(左)を、特製ラー油や黒酢(中)で味変を楽しみながらいただく。そのお供は、生姜たっぷりの”新疆ソーダ”(右)。コロナ禍でアルコールを提供できなかった頃に生み出した、新疆の紅茶文化を伝える一品。

お店を出る時、思い切ってインタビューを申し込むと、その場でご快諾。それが店長の小林アルタンさんでした。

「では後日、インタビューよろしくお願いします!」と言って勢いよく外に出たものの、大雨。しまった、傘が無い。仕方ない、走って駅まで行こう・・・と思った矢先、アルタンさんが「これを使ってください」と私たちにビニール傘を差し出しました。

そんな素敵な気遣いに感動した、一人の新疆出身モンゴル族女性の細腕繁盛記です。

お店は”我が家” お客さんは”家族”
このレストランを開店したのは、2018年7月。新疆ウイグル自治区のお料理と、私たちモンゴル族のお料理の両方を提供するから”シルクロード料理”を謳っているんですね。日本人にあまり馴染みが無い羊肉料理のような、私たちが愛する味、私たちにとってのお袋の味を広めることが出来たら・・・という思いで日々働いています。

食から現地の生活習慣や、地理・天候のことを学ぶことができます。例えば新疆は小麦を使う麺類が中心ですが、一方で空気が乾燥しているため米類はほぼ収穫できません。そのようなことをご想像いただきながら、お客さんは私たちのお料理を召し上がってくださいます。中国や新疆だけでなく、世界各地の文化が好きな人たちだからでしょうね。

ウイグルの米料理”ポロ”。乾燥した気候ゆえに米が貴重な新疆では、祝い事などの時に食べるそう。羊肉と人参、または干しブドウと人参を炊き込んだ2種類のポロを当店で提供。

お店を運営する会社の代表である弟さんが細部にまでこだわって丹念に焼き上げるシシカバブ。


ベンシ(羊肉の水餃子)。ウイグルでは餃子にも羊を使うのですね!

ラグメンは注文を受けた後に打ち、調理される。

トレンディドラマは夢の入口
私は子どもの頃から、周りの人たちから日本のことを聞き、憧れていました。高校時代には『東京ラブストーリー』など90年代の日本のテレビドラマを見るように。その内容に惹かれたというよりは、ドラマを通して日本の普通の生活の様子を見ることが好きだったのでしょうね。

大学卒業後、念願の日本へ留学。その後結婚し、しばらくは育児に専念しました。しかしやがて、自分で何かやってみたいという思いが募ってきたのです。

私は昔のことを思い出しました。日本に来る前から留学時代まで、飲食業に関わってきました。料理そのものも好きだし、何よりお客さんと会話することが大好きで、話す度にワクワクや幸せを感じていた。だから私は、自分自身のレストランを開くことを思いつきました。

私は強力なパートナーとして弟を誘い、一緒に物件探しへ。あらゆる場所を周るうちに三ツ境に辿り着き、地名に”境”という、”疆”の字と同じ”さかい”を意味する文字が入っていることに親しみを感じました。

三ツ”疆”の文字がお店のカードに書かれている。

しかも三ツ境周辺ではかつて絹が作られ、製品を運ぶ”絹の道”が通っていたのです。そんな場所に運命を感じ、私たちはここでレストランを開店することを決めました。新疆で穫れる葡萄のように口コミでお客さんが増えることを願い、「いろいろなご縁を大事にしたい」という私たちの思いも込めて”ブドウエン”と名付けました。

苦難乗り越え掴んだ”葡萄”
開店当初は夜だけの営業でしたが、1日に誰も来ない日や、来てもたった1人など、予想し得ないほど厳しい状況でした。

やがて1度お越しいただいたお客さんが、ご友人やお知り合い、ご家族と一緒にご来店するようになり、少しずつお客さんが増えていきました。そして開店1周年記念には、たくさんのお客さんがいらして、お酒やお菓子を持ち寄って、口々に「おめでとう!」「お疲れ様!」と言ってくれて・・・嬉しくて泣いちゃいましたね。

開店1周年記念でお客さんからいただいたイラスト。中央がアルタンさん、右が弟さん、左が姪っ子さん。この3人でブドウエンを立ち上げた。

故郷の料理で人に街に恩返し
このお店は、本当にお客さんに恵まれていると思います。私たちはお客さんに育てていただきました。単にお店にいらしてくれただけでなく、様々なアドバイスも下さったのです。お客さんのご要望に応じてカレーやパスタなどの料理も、シルクロードのテイストを加えて提供しています。何だか日本とシルクロードの”食の架け橋”のようになっているのを感じて、私は今すごく楽しいです。

私が大好きな日本語は「ありがとう」。お客さんに「ありがとうございます!」という時、この上ない幸せを感じます。この言葉を、今までお店に来てくれた人たちや、今まで私が出会った人たちに伝えたいですね。

そしてこの店を育ててくれた三ツ境の街にも恩返ししたい。「昔は良かったけど、今はもう寂れてしまった」- そんな声を聞くたびに、私は寂しくなります。でも一方で「シルクロードまでは行けないけど、三ツ境なら遠くない」と考え、関東近県だけでなく、東北や九州などからもこの店にいらっしゃる人たちがいます。「三ツ境に行けばシルクロード料理が食べられる」そんなふうに思ってくれる人たちを増やすことで、少しでも三ツ境が楽しい街、楽しい”道”になることに貢献したいと思います。

アルタンさんにとって、日本って何ですか?
私にとって最高の場所です。
もちろん故郷も大好き。家族もいるから、時々恋しくなります。でも日本に来たからには、故郷に恥じないように、故郷に恩返しできるようにしたいですね。

私たちにとって、お客さんは財産。故郷を恋しく思う気持ちを持ちながら、ブドウエンを大事にし、お客さんに笑顔を届けたいと思います。

ブドウエン

横浜市瀬谷区三ツ境19-21(地図
※最寄駅:相鉄線「三ツ境」南口より徒歩4分
電話:045-360-6222
営業時間:11時30分~22時
※定休日:火曜

アルタンさん関連リンク
ブドウエンHP:foodplace.jp/budouen/

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