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家族を社会はどう支えるのか?2019.06.25 | 

 この一か月、「引きこもり」の問題の深刻さに社会は衝撃を受けました。

 5月28日の朝、川崎市の登戸駅付近の路上で、私立カリタス小学校のスクールバスを待っていた児童や保護者らが近づいてきた男性に相次いで刺され、2名が死亡、18名が負傷する事件が起こりました。刺した本人もその場で自殺しました。
 容疑者の男性は51歳で長期間の引きこもりの状態であり、80代の伯父と伯母と同居していました。

 さらに、この事件から3日後の6月1日、東京都練馬区において、元官僚で農林水産省の事務次官も務めた76歳の男性が44歳の長男を刺殺する事件が発生。殺人の動機について元官僚の男性は、「川崎の事件を見ていて自分の息子も周りに危害を加えるかもしれないと不安に思った」という趣旨の供述を行っていると言われています。

 80代の親と50代の引きこもりの子どもの家族が社会から孤立し、困窮する「8050問題」が深刻になっています。今年の3月に発表された内閣府の調査では、40~64歳の引きこもりの数は推計で61.3万人であり、15~39歳の推計54.1万人を上回っています。

 中高年の引きこもりは、障害者支援や生活困窮者自立支援法(生活保護を受給する手前の人を支援)などの制度でカバーされない狭間の問題であり、長らく「家族の問題」として公的には放置されてきました。
 親も自分の子どもが引きこもり状態になっていることに対して負い目を感じて、なかなか人に相談できないケースも多いと言われています。

 今回の一連の事件で、「長期の引きこもりは何をしでかすか分からない」「家族を責任もって社会に迷惑をかけさせるな」…といった眼差しが当事者やその家族に向けられるいるでしょうし、さらに追い詰められてしまうでしょう。
 実際、ネットニュースのコメントでは、元事務次官に対して、「よくやった」「父親は悪くない」「製造者責任法を守った」といったものもありました。
 
 GPFは「Strengthening Families (家庭の強化)」を平和構築のアプローチの一つに掲げています。この場合、「エンパワーメント」という文脈が強調されることが多いと思いますが、孤立する家族や家庭をどう周りが支援していくかということも重要なポイントだと言えるでしょう。

 もちろん、「孤立する家庭を社会が支援すべきで、このような悲劇を繰り返してはいけない」ということに反対する人はほとんどいないと思います。
 しかし、例えばこんな状況になったとき、あなたはどう考えるでしょうか?
 実際に長期間引きこもっていた男性が、少しずつ外に出て「リハビリ」をしようとしています。そんな人が、子どもたちが遊んでいる公園を散歩していたら。そして、あなたがその子どもの親だったら。

 そんな時に、「不審者」として通報する人がいるのも事実なのです。

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