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オンラインセミナー「国際政治におけるアイデンティティの役割:北東アジアを中心として」 を実施しました2020.10.13 |
9月23日に立命館アジア太平洋大学 アジア太平洋学部 教授の綛田芳憲氏を招き、「国際政治におけるアイデンティティの役割:北東アジアを中心として」というテーマで講演をいただきました。
当日は 綛田教授による講義が60分ほど続いたあと、質疑応答の時間を持ちました。
多くの内容の中で、要点を抜粋します。
■アイデンティティが国際政治に果たしてきた役割
・国際関係の中で、アメリカ/日本の北朝鮮に対する認識、また、北朝鮮の自国に対する認識をもとに考える。
・北朝鮮に対する私たちの認識―危険、邪悪、などネガティブなものが多い。アメリカの保守政権(ブッシュ政権時)は北朝鮮をイラン、イラクと並んで悪の枢軸として位置付けていた。
・なぜそのような認識を持っているか。核兵器開発、ミサイル開発、と言ったことが挙げられる。
■アメリカの対北、自国(アメリカ)認識
・アメリカは善であり、責任ある大国、国際平和の守護者、世界の警察官、と言うように、自国を肯定的に位置付けている(ブッシュ政権の時に顕著)。
■日本の対北、自国(日本)認識
・日本の北朝鮮認識→危険で邪悪。核開発やミサイル開発に加え、日本人拉致が原因として大きい。
・日本の自国認識→アメリカ以上に北朝鮮の脅威を認識。地理的に近く、アメリカに届くかわからない弾道ミサイルが日本には届く、と言った理由。
・防衛力が不足。自国で十分な防衛ができない(憲法上の制約)ので、日米同盟の重要性を強調。
■北朝鮮の対米、対日、自国(北朝鮮)認識
・特にアメリカからの甚大な脅威に直面している、との認識。朝鮮戦争終結後、講和/平和条約が締結されておらず、アメリカに敵国と位置づけられ、制裁を受けてきたことにもよる(北朝鮮からするとアメリカの敵対的対応が続いているとの認識)。
・元々、ソ連と中国という2つの同盟国があったが、ソ連崩壊以降、ソ連からの支援が途絶え、北朝鮮は経済危機に陥る。
・1990年以降、韓国とソ連の国交正常化、中国と韓国の国交正常化。ソ連の核の傘がなくなり、中国の核の傘も信頼性が大幅に低下。
■アメリカ、日本、北朝鮮の関係
・北朝鮮はアメリカ、日本と今日に至るまで国交がない。北朝鮮は、今日160カ国以上の国と国交を持っている。主要国で国交を持っていない国はアメリカ、日本、韓国、フランス。
・北朝鮮はアメリカ、日本との国交正常化を望んでいた。
・北朝鮮は、70年代から平和条約締結を提案し、1994年の米朝枠組み合意により、核施設を凍結し、アメリカとの関係改善に努める。しかし、2002年、北朝鮮のウラン濃縮という新たな核疑惑により第二次核危機が勃発。
・2003年夏から6カ国協議が行われる。2007年に具体的な合意を見る。内容は米朝枠組み合意とそれほどの違いはない。しかしその後、6カ国協議は頓挫。
・文大統領との協議で、朝鮮戦争の終結宣言を出したが、アメリカ、トランプ大統領はその提案を受け入れず。
・現在、北朝鮮には中国との同盟関係があるが、中国の核の傘を信頼できない状況にある。北朝鮮の行動は国際政治理論の現実主義や勢力均衡論に合致している。
・日本は独自の軍事力が憲法によって制約されているとの理由で、日米同盟の有効性を強調。しかし、日米同盟の強化により北朝鮮の脅威を減らすことはできず、北朝鮮の核やミサイル開発を助長してきた側面すらある。
・アメリカが北朝鮮との敵対関係解消に消極的な立場をとってきた理由→関係改善に伴うデメリットがメリットより大きいため、と思われる。すなわち、メリット:軍事的緊張の大幅な低減。朝鮮戦争以降続けてきた経済制裁の解除により、北朝鮮が国際経済の一員に加わる。核問題をめぐる米朝間の対立がなくなり、北東アジア地域の経済成長につながる。
→北東アジア地域の急速な発展により、アメリカ企業も恩恵を受ける。しかし、その効果は広く薄い。デメリット→北朝鮮の脅威が低下すれば、在韓米軍、在日米軍の存在意義が相対的に低下。在韓米軍の縮小される可能性。また、それにより、沖縄での反基地闘争が強まり、在日米軍も縮小を迫られる可能性。また、北朝鮮の脅威が低下すれば、アメリカの日韓への武器輸出が減少する可能性。
※特に軍事面でのデメリットが大きい。
■北朝鮮の軍事的脅威に対して
・脅威の程度は、軍事力だけではなく、それを使う意思の強さにも影響される。
・北朝鮮は日本を攻撃する能力は備わっているが、意思については慎重に評価をする必要性あり。総合的な脅威のレベルを評価した場合に、日本を攻撃する可能性はそれほど高くないのでは。
・北朝鮮の攻撃能力を低下させるためには段階的に非核化を進めていくのが現実的。
■北東アジアの一員としてどのようなアイデンティティ を持つべき?
・北朝鮮を単純に悪とした他者認識は現実の外交を行う上で適当ではない。
・単純化した自己認識、他者認識を生じさせるアイデンティティは持つべきでない。どういう自己認識を持つべきか、というより、持つべきではないか、という部分で考えた方が良い。
■質疑応答
質問)大統領選挙の結果でアメリカの北朝鮮への関与は変わりそうか?
回答)簡単には変わらないのでは。共和党内部主流派の立場と民主党の立場はかなり似通っている。クリントン政権下でも国交正常化に向けての進展はなかったし、アメリカは現状が変わらないことにデメリットはあまり感じていない。
質問)中国が改革開放政策により経済発展を成し遂げたがいまだに共産党が強い統制を行っている。北朝鮮が周辺諸国との関係を改善したとして、金正恩体制の変化があるかは疑問なので、体制自体の変化、がなされないかぎり、終戦宣言も宣言だけになるのでは。経済制裁による体制の変化はあるか。市民社会ができることは何か。
回答)北朝鮮は政権の生き残りを最優先課題としており、現政権下で米朝関係の改善は現体制を支えてしまう。一方で、このままの状態を放置するのもどうか。北朝鮮経済は崩壊する状態ではないという報道もある。
北朝鮮との関係改善を進めていき、北朝鮮を変えていく。国際社会の一員として取り込んでいくことで、アメリカ、日本、韓国など他国との相互依存関係が深まる。その結果、他国の北朝鮮への影響力も強まる。