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ヴラジミール・ソモブさん回顧録2 「2つの世界の境界線」2020.11.25 | 

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 私の北朝鮮での2日目は、トランプ大統領が北朝鮮の首領の金正恩とDMZ(非武装地帯)で予期をせぬ会談をした日の翌日でした。トランプ大統領は南(韓国)側のDMZにその前の日にいたのです。あまりにも奇遇です。

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 DMZにはお土産屋もあってプロパガンダ用のポスターが売られていました。私が聞いた話では、私の旅行のたった一年前でも、そのお店ではたくさんの反米用のプロパガンダを売っていたそうです。
 例えば北朝鮮のミサイルがアメリカの首都を照準にしている絵が載ったポスターとか、北朝鮮の兵隊たちがアメリカのミサイルを粉々に打ち砕くポスターとかです。ところがガイドが説明してくれたのですが、そういったポスターを売ったり、作ったり、お店に展示したりするのは、2018年6月のトランプ大統領と金正恩のシンガポール会談し後は、止めたそうです。

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バルコニーから2つのコリアを眺めるヴラジミールさん。
写真提供:ヴラジミール・ソモブさん

 私が一番驚いたのは、全くといって良いほど科学技術はなく、外の世界とのつながりは実質ゼロだったことです。私は常に自分の携帯電話を取り出しては毎回チェックするも、すぐにデータが一切ダウンロードされずWi-Fiもない状態がロシアに帰るまでは続くことを悟らされるのです。しかし面白いことに、私が北朝鮮側のDMZから韓国側の景色をバルコニーに立ってみている時に、突然私のiPhoneが短い音を鳴らしながらメッセージをダウンロードしていたのです。大変驚きましたが、それはローミングによるものであり、韓国のプロバイダーからの弱い信号をキャッチしていたからであると分かりました。

 私はオンラインにアクセスする方法はあるのかとガイドに聞きました。すると、彼らは特定のホテルに行ってWi-Fiの費用を払うか、一時的なSIMカード(外国人だけが購入可能)を買えばいいと言います。結局私はホテルに行くことになったのですが、Wi-Fiが遅くて、かつ、ほとんどのソーシャルメディア関連のアプリはブロックされました。はじめて、私は世界から取り残されたように感じました。私の両親や私の友人と連絡する手段が一切なくなったからです。私は携帯電話なしには私の旅行を最大限に楽しむことはできないと確信しました。

―もう一つの現実
 国際友好展示館は様々な贈り物が展示されている博物館として知られていますが、184カ国ものさまざまな国から金日成、彼の息子の金正日、そして現在の指導者の金正恩に対して贈られた20万個以上もの品々を展示しているのです。北朝鮮という世界で最も隔離された国なのに、「国際友好展示館」というその名前自体、ちょっと矛盾しているように感じました。

 もう一つ私が経験した奇妙な体験としては、祖国解放戦争勝利のための記念館を訪問したことです。朝鮮戦争を専門的に扱う歴史的軍事的博物館です。もう一つの現実ともいうべき世界の中での経験は非常に魅了的なものがありました。博物館での案内はほとんどが明らかなプロバガンダ的な内容であり、いかに悪のアメリカが朝鮮戦争を始めたのか、それがいかに勇敢な朝鮮人たちによって完全に打破されたのかを説明する反米的言葉がちりばめられたものでした。

―制服と統一性
 私は北朝鮮滞在の3日目には、平壌にある学校を是非とも訪問したいと思っていました。ガイドに言われたのは、「私が決めたスケジュールに載っていない」ということでした。なので、ガイドたちは外務省やその他の政府団体から許可をもらわないといけないと言います。ただ、私と同年代の生徒たちに話しかけて、彼らの日常生活についてもっと詳しく知ることのできる機会を得ることができ、とてもワクワクしました。

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特別なコンサートのための準備をする女学生たち
(写真提供:ヴラジミール・ソモブさん)

 多くの10代の学生たち(実際はただの女学生)が私と他の中国人観光客のために特別にコンサートを準備してくれました。何人かの女生徒たちが伝統的な朝鮮の音楽をドラムやギター、キーボードを使って演奏してくれました。その他の生徒たちはその音楽に合わせてダンスをして伝統的な朝鮮の歌を歌ってくれました。
 全ての女学生たちは全員同じ制服を着ていて、黒い袖のない洋服で白いシャツを下に着て、靴は全員同じ黒い靴を履いていました。さらに髪型まで同じでした。生徒たちはプラスチックでできた花の冠を私たちの頭の上に置きました。私は気が付いたのですが、彼女たちは公演中一つもミスを犯さなかったのです。誰も言葉を間違わなかったのです。誰も打つところを間違えなかったのです。誰も楽器の演奏で違う楽譜を演奏したりしなかったのです。誰も全ての曲で複雑な振り付けを間違わなかったのです。
 些細な例ではあるのですが、私にとってはこのコンサートは、北朝鮮政権の深刻さを反映したものだと映りました。

 学校での経験に非常に熱中した後は、私はガイドの一人に案内されて、教室の中に入っていき、教壇のところに立たされました。そこで奇妙な光景を目にしました。控えめに言っても。生徒たちがみんな非常に静かだったのです。私たちが教室に入ると、誰に促されることなくすぐに自分の席につくのです。
 そうは言ったものの、私は生徒たちがアメリカにいる私のクラスメートたちとなにがしか似ているところはあるなということを知って驚きもしました。北朝鮮の生徒たちも生徒たち同士でおしゃべりもするし、教室中をうろうろしたりもするし、笑うのですが、そのような行動を静かにするのです。私がティーンエイジャーならするだろうと思っていることは全部しているのですが、彼らは非常に物静かにそれをやっているということだけが違いました。私が今まで出会った中学生・高校生のどの子供たちよりも、ものすごく物静かだったのです。

 ガイドたちは私にスピーチ形式のプレゼンテーションをして、生徒たちにいくつか質問しさせてほしいと言ってきました。

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教室内で北朝鮮の生徒たちと一緒のヴラジミールさん
写真提供:ヴラジミール・ソモブさん

 生徒たちが情熱的にバスケットボールの重要性を説明—「親愛する金正恩指導者」によって愛されているから重要というわけですが–してくれたので、スポーツについての話題で行ったり来たりした後、私は彼らにロシアやアメリカのような他の国をどう思っているのか聞いてみました。
 その反応はある程度予想できるものでしたが、依然として驚くべきものでした。
生徒たちはみな、「ロシアはすばらしい、問題ない」と。そして続いて、迷うことなしに「アメリカは悪い、本当に悪い」と口をそろえて言いました。

 この意見の統一性(uniformity)は私をたじろがせるものでした。彼らはもちろんロシアもアメリカも両国ともほとんど何も知らないのですが。彼らは、一切のぶれやディテールの違いなく一つの意見でした。これは私が理解しがたいことだと感じました。もちろん、生徒たちは公式政党の方針に従ったのか、それとも単に他の意見を言うのを躊躇しただけだったというのなら理解できるのですが…。
 後者の可能性も悲しいことではあるのですが、そでも最悪人間の香りがするものです。しかし、結局、私は私の隣にいるガイドたちに、どちらが理由なのかを確かめることはしませんでした。

 このお話は第三部、「バラバラの世界」に続きます。

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