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オンラインセミナー「米中対立、北朝鮮核ミサイル危機の中での日韓関係の構造変容~非対称的相互補完関係から対称的相互競争関係へ~」を実施しました2021.09.15 | 

8月29日に、毎月行っている定例オンラインセミナーの講師として、東京大学大学院総合文化研究科教授の木宮正史教授をお招きし、「米中対立、北朝鮮核ミサイル危機の中での日韓関係の構造変容~非対称的相互補完関係から対称的相互競争関係へ~」をテーマでご講演をいただきました。

日韓関係の背景にある事象とそれに対する分析やその展望、将来的に起こりうる朝鮮半島統一について日本が取るべき方向性や視点についてお話を伺いました。
木宮先生は、今年の7月に岩波新書から『日韓関係史』という本を出版されております。その内容も含めての講演でした。
多くの内容から、要点を抜粋します。

―今回の講演内容の概略
■日韓関係の変質について―非対称的相互補完から対称的相互競争関係へ。
■混迷する現在の日韓関係についてーこのまま方向性を違えて進んでいくのか、それとも、打開策はあるのか。

―現在の日韓関係悪化の直接的な背景
■直接的な原因として、韓国であった一連の司法判断。元徴用工、慰安婦問題についての司法判断。元徴用工については2018年の10月に韓国の大法院判決、慰安婦問題に関しては実は2021年の1月のソウル中央地裁での判決。ただ、その後、同様の事案に対して違う判決が出るなど韓国の司法も混乱、模索している側面がある。
■上記の判決について、日本政府は国際法違反だとしている(1965年の日韓請求権協定で完全かつ不可逆的に解決した。2015年の日韓政府間合意にも反している、と言う立場)。
■日本の内閣府が毎年行っている外交に関する世論調査では、日本社会では1970年代~2000年代ぐらいまで中国に対する親近感の方が日本社会では高かったが、2000年後は韓国に対する親近感のほうが高くなった。ただ、2010年代以降になると、日韓関係も悪くなった。2000年代に日本の中であった親近感が2010年代になってかなり落ちてきているのは懸念事項である。

図を用いて日本の世論の変遷を解説する木宮教授

―現在の日韓関係悪化の大きな背景
■二国間の関係が、非対称的(全く違う)関係から対称的(似た)関係へシフトしたことが背景。
非対称の時期(大体1980年代まで):日韓は互いに相互補完的関係。自分の国のために相手の国が必要である状況。
対称の時期(1990年代以降):冷戦が終わり、韓国が民主化。中国の大国化のなかで、日韓は競争関係へ。
■非対称関係、対称関係を考える次元としては4つ。
1. パワー(経済)
2. 体制(日本が民主主義、市場経済であったのに対し、韓国は独裁、政府主導の経済開発)
3. 関係性の変質(日韓関係=政府と政府の関係+財界と財界の関係から、それ以外の文化も含めての関係へと変質した)
4. 情報や価値が日本から韓国へは流れていたが、韓国から日本へ流れてはいなかったこと。日本は韓国を反共の防波堤としての関心があった。
■上記の流れと、非対称的な関係の中で、日韓はアジアにおける反共陣営として、アメリカとの同盟関係を共有していた。
■二国間は次第に変化し、1990年代には対照的な関係へ。日韓の国力が接近し、GDPとしても接近した。しかし、昔の名残からか、日本の中にも韓国を一段下に見る人もいれば、韓国には日本の力を過小評価する人もいる。
■また、韓国が先進国となり、独裁権威主義体制から民主主義体制へと大きく変化することにより、日韓は先進的な市場経済と民主主義という基本的な体制・価値観を共有するということになる。
■日本国内には、韓国が中国に傾斜していると非難する人、また、韓国には日本の歴史認識を声高に糾弾する人がいる。しかし、このような人々は、過去、日韓が価値観を共有するまでに経た道のりをどれほど理解しているのか。
■日韓の文化の相互交流が進んでいるが、そのことで日韓のお互いの文化に対する理解がどれほど深まったのか、というとそこには疑問符がつく。相互に情報の流通が進むことによって、お互いの実態に触れた時に、持っていたイメージとの乖離により、かえってネガティブなイメージを与えている可能性もある。

―非対称的相互補完関係から対称的相互競争関係へ
■冷戦時代、日韓が非対称な関係であった時代の日韓の共通目標が達成され、日韓の目標が喪失された側面がある。もちろん、1990年代に入り、北朝鮮の軍事的脅威に対して日韓の協力が必要な場面もあったが、アメリカとの協力の中で、日韓のいずれがより利益を得るのか、と言うゼロサム的な要素が強くなっている。
■日韓は競争するべき。しかし、どのような質の競争であるかが重要。スポーツや学術においても、大いに善意の競争をして、お互いに良い成果に向かっていくことが大切である。
■日韓で善意の競争ができる側面は二つある。日韓が共有している社会課題(少々化、高齢化、環境問題など)と共有する国際環境。
■共有する国際環境については3つある。1つはアメリカと同盟関係を共有していると言う側面。2番目は米中関係の対立にどのような対応するか。3番目に北朝鮮問題(特に核ミサイル開発)。
■今までは日韓の間に様々な問題があったとしても、共通の目標を抱えて、日韓が協力することによりある程度問題を抑え込んできた側面があった。ただ、2000年代に入ってから、共有する国際問題への対応について、日韓が違った方向を向いてきていると感じる。

―もう一つの日本外交、もう一つの韓国外交
■冷静に見た際に、日韓は目的、方法がそれほど乖離しているのか。例えば北朝鮮の軍事的脅威の減少は日韓の共通利益であるだけでなく、他の国より切実な状況。この課題を平和的に解決することも、日韓にとっては非常に重要である。
■日韓は北朝鮮に対して全く手段がないわけではない。ただ、北朝鮮にとって魅力的なカードをこれまであまり活かしてこなかった側面がある(日本からの経済協力など)。
■北朝鮮は韓国からの吸収統一を警戒しており、現体制を維持するために、アメリカからの承認を得ようとしている。そこにおいて、日韓はアメリカとの繋がりをもっと活用し、北朝鮮に対するプレゼンスを高める方法もあるのではないか。

―朝鮮半島の統一について、日本が取るべき姿勢
■分断から73年、朝鮮戦争の勃発71年が経過。冷戦が終わり韓国も体制優位を確立したが、韓国優位での平和共存、統一のプロセスが順調に進んでいるとは言い難い。韓国国内でも若い人を中心として自分たちの不利益を我慢してまで統一する必要があるのかという疑問が出ている。
■北朝鮮は統一という看板は下ろさず、連邦制統一ということを言っているが、それは現状の分断の固定化に過ぎない。
■ 日本では一部、反日韓国が統一で強くなるのであれば、分断させておいた方がいいと言う極端な議論もあるが、日本が朝鮮半島統一の被害者になるのかと言うことがあらかじめ決まっているわけではなく、実現前から心配するのは行き過ぎである。
■統一に日本がどのように関わるのかにより、日本と統一コリアの関係は変わってくるであろう。韓国主導、非核統一に対して、日本が働きかける必要がある。
■北朝鮮が核開発を行なっている間は国交正常化して日朝経済協力を進めるべきだとは思わない。しかし、金大中政権が狙ったような形で、現在よりもスムーズな形で北朝鮮との経済統合や統一に有利な環境を醸成する可能性もある。そうした韓国主導の統一に向けて、それに日韓がどのような意図を込めるのか、そのためにどのように関わるのか、お互いにどのように利用し合えるのかと言う戦略的な思考が日韓双方には必要ではないかと考える。
■望ましい米中関係に関しても日韓はそれほど乖離していない。日韓が協力して米中に働きかけることによって日韓にとって望ましい米中関係に近づける。その際に、歴史問題や領土問題が協力の妨げになるのであれば、果敢にそれを管理していくことが必要ではないか。

質疑応答でも、非常に高い関心を持った質問を多数いただきました。
詳しくは動画をご覧ください。

 

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