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オンラインセミナー「北朝鮮経済の変化と今後の展望ー経済成長と国民生活の向上をどう実現するかー」を実施しました2022.08.10 |
7月31日に三村光弘氏((公財)環日本海経済研究所 調査研究部主任研究員)をお招きし、「北朝鮮経済の変化と今後の展望ー経済成長と国民生活の向上をどう実現するかー」をテーマとしてオンラインセミナーを行いました。
市場経済の実質的浸透に伴う北朝鮮社会の変化や、朝鮮半島の統一に向けて日本が支援できること、また、朝鮮半島の統一が実現された際の日本に対するメリットなどをお話しいただきました。
講演の要点を以下にまとめました。
ーはじめに
■南北間には大きな経済格差がある。それが縮小する方向に行かなければ、南北の社会を統合するのも非常に難しい。
■金正恩政権になり、経済成長を重視する方向になっている。これには、国民を豊かにするということと共に、南北の経済格差がこれ以上拡大すれば統一ができないという面もある。
ー北朝鮮経済の変遷
■金日成政権期(1948年~1994年)
・1945年まで朝鮮半島は大日本帝国の領土の一部であったが、日本人の財産や経営していた工場や、鉄道・水道などのインフラを含めてソ連が没収し、それが北朝鮮に渡され国有化された。
・当初は小作人から自作農になった農民の生産意欲は非常に高いものがあった。
・朝鮮戦争中、「戦時統制経済」で国が統制する中で餓死者を出さずに戦争を継続できたという成功体験から、後に農地の集団化を進めることになり、結果として生産意欲は低下していった。
・朝鮮戦争後、社会主義国家同士で貿易を行ったり、戦後復興の支援を受けるなどの恩恵があり、生産力を上げることよりも社会主義化のスピードを上げることに注力していた。
・ところが1989年くらいからは、ハンガリー、ポーランドなどが北朝鮮を裏切って韓国と国交正常化し、さらにソ連や中国も韓国と国交正常化するなど、状況の変化が起きていった。
■金正日政権期(1994年~2011年)
・米国や日本と国交正常化ができず、どこの核の傘にも入れないという、国際的に孤立した状況の中で対応したのが金正日政権期だったのであり、核開発のメインはこの時期だった。
・98年から経済改革を始めて2002年には大きな改革をしようとしたが、色々な問題が出てしまった。
・当時はかつての「美しい社会主義」への追憶がある中、資本主義の受け入れに対しては北朝鮮全体として抵抗がある時代だった。
・国家の機能が落ちてしまい、軍隊の力に頼らざるを得なくなり、「先軍政治」を推し進め、核開発に資源をつぎ込んだ。
■金正恩政権期(2012年~)
・物心がつく頃にはソ連が崩壊していたという人が政権を握った。ソ連・東欧の社会主義が崩壊し、社会主義国際市場がないというのが前提の時代の人物。
・社会主義国であっても、中国・ベトナムなども貿易は資本主義国際市場と行っている。国内では社会主義をしながら、貿易は金儲けのために資本主義で行うというのが、社会主義国家でも受け入れられてきた時代であり、金正恩政権も同様。
・2013年3月には「経済建設と核武力建設の並進路線」と、ここで初めて経済が軍事よりも前に来たのは大きな変化であり、実際に住宅建設などに注力している様子が見られた。
・2018年、2019年には二度の米朝首脳会談が行われ、トランプ政権期には金正恩政権も米国に期待していた様子で核実験やミサイル実験はなかった。しかしそれが決裂するとミサイルの発射が恒例になっていった。
・このように北朝鮮の経済の路線は変化してきている。昔は経済に注力せずとにかく国がなくならないことが重要だったが、今は軍事面では核に注力して他はコストダウンし、国民生活を良くするということを見せないと、国がもたなくなってきている。
・金正日時代から法治国家を目指す方向性はあるし、金正恩時代に入って現実を直視して問題解決ができるような若い幹部に入れ替えている。実事求是を重視し、国民に対してちゃんとリターンを持ってこれる人を用いようとするようになった。また収入を増やすために働くという在り方を否定的に見ないようになった。
ー南北統一について
■2020年、北朝鮮の一人あたりGDPは1100〜1200ドル程度。韓国は31846ドルなので、28倍くらいの経済格差がある。
■ドイツの統一時には、経済格差は約2倍だった。それでも東ドイツは社会主義国の中では一番良かった。
■南北のこのような状況で、すぐに統一することになると、すべてが韓国の持ち出しになってしまい難しい。韓国の納得も得づらく、北朝鮮の人にとっても相当なショックがある。実際、脱北したのに韓国の資本主義についていけずに北朝鮮に戻る人もいる。
■できれば北朝鮮の一人あたりGDPを、どうやって1万ドルに引き上げるのかを考えなければならない。日本が途上国支援をしてきた経験に照らしても、3000ドルまで持っていくのも大変なことではある。しかし1万ドルまで持っていかなければ、生活水準、社会福祉、雇用、賃金格差、税金問題など、相当な無理が出てくる。
■このように経済格差を縮小しないと、自由に南北を往来できるような状態にしていくことが難しい。
ー日本は南北統一にどのような貢献ができるのか
■日本がこれまで行ってきた途上国支援:一人あたりGDPが元々3桁の国に対しても支援や投資をしてきている。
■単に支援するだけでなく、有効な経済成長ができるような政策や主要産業をどうするかまでコンサルティングして、日本の押しつけではなく、その国の政府の人たちが自発的に考えれるようにキャパシティ・ビルディング事業を行い、複合的な人材育成を行ってきた経験がある。
■日本が支援してきたベトナム・ミャンマー・カンボジアなどはWTOに加盟するようになったし、RCEP(地域的な包括的経済連携)にも加盟している。
■日本が支援することで北朝鮮がそういうところに加盟していくというのは夢物語ではなく、現実的な話である。核問題に目処が付けば、日本はこれまでのノウハウを活かして支援できると思う。
■北朝鮮が日本と目標を共有できれば、15年くらいでRSEPに入ったり、20年くらいでTPPにも入るかも知れない。
■南北関係を考えると、韓国に助けてもらうと、南側主導の統一になるのではないかと対抗心が出てくる。また中国に貿易の9割を依存しているが、一国だけに大きく依存するのは良くない。北朝鮮の一人あたりGDPを引き上げていくのに、日本が貢献することができる。
ー南北統一の日本にとってのメリット
■朝鮮半島の平和と安定は日本にとっても重要である。日本の近代化以降の戦争を振り返っても、朝鮮半島がらみで戦っている。そういうことを見ても、朝鮮半島の情勢は日本と大きく関係している。
■朝鮮半島が安定した発展を遂げていく環境を作ることは、日本の安全保障や生存環境、成長環境を作る上で重要。
ー米朝関係と北朝鮮経済
■北朝鮮は核に関してアメリカとうまく対話できていない。制裁を受けながら耐えてきた。国民生活は大変だったが倒れるまでは行かなかった。
■バイデン政権が中間選挙で大きく負ければ、アメリカとしては北朝鮮と非核化の第一歩について話そうという動きを始めるかも知れない。
■北朝鮮は中国・ロシアとは貿易ができるし、米朝関係が悪い間はBRICsとの関係で何とかやっていく。
■しかし米朝関係を改善せずして、日本や西ヨーロッパとうまくやっていけないため、米朝関係を改善したいという気持ちを、北朝鮮は失っていない。
ー質疑応答
Q.韓半島の統一は中国共産主義と米国自由主義との緩衝地帯がなくなるということで、デメリットがあるとも聞きますが?
A.アメリカにとっては日本も緩衝地帯になるので、緩衝地帯としての朝鮮半島にこだわらなくても良い。ロシアや中国にとっては、南北統一によって米軍が国境近くに配備されるのは怖いのではないか。
Q.日本国内における朝鮮半島統一の世論形成は難しいのではないでしょうか?
A.日本にとっては、朝鮮半島で戦争が起こる可能性が減る。核ミサイルが飛んでくる可能性が、今はわずかでもある。それがなくなる。基本的に朝鮮半島が平和で安定した地域になれば、投資や貿易が進む。国交正常化して北朝鮮と対話をして、ミサイルを打つよりは、私たちと協力して、一人あたりGDP1万ドルを目指しませんか?という交渉ができるようになるのは大きい。
・統一まで行かなくても、非核化に歩みだし、アメリカも制裁を段階的に解除し、日本や韓国が北朝鮮との経済・政治関係を発展させることを許容し、周辺の緊張関係が軽減されていくのが大きなメリット。朝鮮半島の平和と安定のプロセスが進めば、東北アジアの平和と安定につながる。緊張と対立から、平和と協力へ進むのは良いことだと思う。
Q.北朝鮮と韓国の経済格差がなくなると、二国が貿易しながら分断状況が継続する恐れはないでしょうか?
A.当事者である南北の人が統一したいと思うならば、統一すれば良い。ただ、当事者たちが統一したいと思っているのに格差が大きすぎると、統一することがしんどいということになる。経済格差がなくなって統一したいと思えば統一できるようになれば、統一するかどうかはその時に当事者たちが決定すればよいし、周辺国はその決定を尊重すれば良い。
Q.北朝鮮は核がないと国が守れないと考えているようだが、核を放棄した場合、アメリカが軍事的な行動にでる可能性はあるのか?
A.アメリカが思う可能性と北朝鮮が思う可能性は違う。北朝鮮は「弱い国はやられる」という国際社会の冷酷な現実を知っている。
・例えばバルト三国はNATOに入って、核の傘に入って、ロシアに対して相当強気なことを言っても攻めてこないと思っている。しかし北朝鮮は中国もロシアも誰も守ってくれない。仮に核を放棄したら中国やロシアの核の傘に入れるというわけでもない。北朝鮮の隣国でG20じゃない国はない。強大国に囲まれて、北東アジアではなかなか厳しい立場。
・北朝鮮の場合には大失敗すれば韓国に吸収合併される可能性はある。
・アメリカとの関係が改善し、日本との関係が改善されれば、最終的に南北関係がどういう方向に向かうのかが大きな課題。アメリカが軍事行動にいく可能性はないとしても、韓国に吸収合併されるのであれば、核は持ち続けたいと考えるだろう。
・国家の論理として危険がないと思うまでは核を放棄し切るまでは行かない。
・経済発展によるリスク軽減が、核放棄の時期を早めることになるだろう。