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オンラインセミナー「米中新冷戦の中の朝鮮半島の現状と課題」を行いました2022.10.06 | 

2022年9月30日、李鋼哲氏(一般社団法人 東北亞未来構想研究所 代表理事・所長)をお招きし、ご講演をいただきました。

講演の内容の要約です。

ー自己紹介
■環日本海地域をフィールドとして活動し、東北アジア共同体を如何につくるのかという研究をしてきた。
■東北亞未来構想研究所を、東北アジアの研究・交流活動を行う人材育成や政策提言をするという目的で、20〜30年先を見据えて設立。
■中国の延吉出身。20歳くらいまでは朝鮮語で生活していたが、北京の大学に進学し、哲学を勉強した。その後、共産党大学院で共産党研究に関する勉強をした。そして、共産党の高級幹部を養成する大学で4年間教鞭をとった。
■89年の天安門事件で中国に対して失望したところがあり、日本語を勉強していたこともあって、日本の大学院で勉強し、研究者になった。
■90年頃から豆満江デルタ国際開発プロジェクトを担当し、出身地でもあったため、日本から何度も足を運んで現地調査をした。ロシアや北朝鮮にも入った。
■2002年、福田康夫官房長官に「北東アジア開発銀行の設立と日本の対外協力政策」を提案。
■2003年〜2006年、内閣府傘下、総合研究開発機構の主任研究員として「北東アジア・グランド・デザイン」をテーマに政策研究。

ーはじめに:米中は「新冷戦」時代に突入
■米国はトランプ政権下の2018年、中国に高い関税を課すなどし、中国も対抗措置をとることで、米中の世界覇権競争が本格化した。
■自由主義総本山の米国と、共産党一党独裁牙城の中国。全く異なる価値観と体制のG2。
■中国は西側の価値観を完全に否定し、「中国式民主主義」を主張。
■米国は習近平氏を全体主義の信奉者であるとして中国の勢力拡大を警戒。
■バイデン政権ではG7を糾合して中国包囲網を作ろうとしている。
■かつての冷戦が終わり、「新冷戦」が始まっている。

1.「新冷戦」の特徴
■「米国およびその同盟国」対「中国」という、非対称の戦い(グループ対一国)
■経済のグローバル化により、両陣営が対立しながらも深く関わり合っており、中国は米国とのデカップリング(切り離し)はできないと考えている。
■核兵器開発競争ではなく、中国の軍事力増強と対外拡張に対して、米国が封じ込め政策を行い、西側同盟国で対抗。
■旧冷戦の最前線はヨーロッパだったが、新冷戦の最前線は東北アジア地域。
■中国は前政権まで、あまり目立たずにコツコツと力を養う経済中心路線だったが、現政権になり大国主義路線をとるようになった。(これは時期尚早だった)

2.「新冷戦」の重層的な対立構造
■この対立の構造を分析すると、表層的には貿易不均衡や知的財産権、技術競争、金融・為替競争などの市場競争があると考えられる。
■より深い中層には制度・体制的対立や、価値観(イデオロギー)対立という、社会主義対資本主義という構図がある。
■そして最深部には、世界覇権の争いや文明の対立といった人類的な問題がある。
■世界覇権競争について言えば、覇権国である米国に対して、中国が挑戦国として台頭してきている。
■覇権国に対して挑戦国の国力が6割に達した時に争いが始まると言われているが、歴史上、覇権国と挑戦国が入れ替わったことはない。

3.中国の大国戦略と世界秩序への挑戦
■中国の大国外交戦略。2013年「一帯一路」構想。2015年「アジア・インフラ投資銀行(AIIB)」設立。2015年、上海協力機構(SCO)を主導し、国際銀行設立。「BRICS国際銀行k」設立。
■中国は世界平和と安定の守護者、グローバル化(自由貿易)の推進者だと主張。

4.「旧冷戦」中の朝鮮半島の地政学
■朝鮮半島は歴史上、中国との関係で「華夷秩序」に組み込まれてきたが、間接統治であったため、一応の独立を保持してきた。
■近代に入り、ロシアと日本が朝鮮半島の所有権を争った。
■戦後は米ソ超大国による冷戦構造の中で分断。
■1990年代、南北統一の動きが活発化したが、再び米中新冷戦の中で対立関係に逆戻りしつつある。
■旧冷戦時代は、社会主義と資本主義の体制およびイデオロギー対立であった。
■北朝鮮はマルクス・レーニン主義ではあるが、そこから独自に発展させた「主体思想」を国是としており、特に冷戦後は、政治的自主、経済的自立、国防的自衛を目指している。

5.冷戦崩壊後の朝鮮半島の歴史的な機会
■1990年代、冷戦崩壊によって東北アジアと朝鮮半島の国際関係は劇的に変化。
■90年代初頭、韓国はソ連・中国と国交正常化。
■ソ連崩壊と中国の経済体制転換により、パワー・バランスが崩れ、北朝鮮は孤立化し安全保障上の危機。結果として国防的自衛を掲げる北朝鮮は核ミサイル開発に邁進。

(1)南北関係の歴史的なチャンス
■1998年〜2008年は進歩(革新)政権(金大中→盧武鉉)
・対話や経済支援により変化をうながす「太陽政策」。2000年と2007年に南北首脳会談実現。
・2000年6月15日、6.15南北共同宣言。朝鮮半島和解ムード。
■2008年〜2017年は保守政権(李明博→朴槿恵)
・核放棄最優先の対北政策、核実験を受けて強硬姿勢に転換。
・朴槿恵は「韓半島信頼プロセス」を提唱。
■2017年〜2022年は進歩(革新)政権(文在寅)
・対話重視。2018年4月に南北首脳会談を実現し南北和解のプロセスに入ったが、その後停滞。
■2022年5月〜保守政権(尹錫悦)
・「北が核開発を中断し実質的な非核化に転換するならば、その段階に合わせて北の経済と民生を計画的に改善する大胆な構想を今この場で提案します」
・しかし現政権では南北交流を開くのは不可能に近い。

(2)日朝関係回復の歴史的なチャンス
■1990年、自民党の金丸信、社会党の田辺誠ら議員団が訪朝。金日成総書記らと会談。「日朝3党共同宣言」を発表。
■2002年9月17日、小泉純一郎首相が訪朝し金正日と会談。日朝平壌宣言に署名したが、その後、拉致問題と核開発やミサイル発射問題で対立。国交正常化交渉は中断。
■1991年〜2002年まで計12回の日朝国交正常化交渉が行われたが、2002年を最後に20年間の空白がある。現政権下では変化の兆しがまったく見えない。

(3)米朝関係回復の歴史的なチャンス
■2000年10月23日、オルブライト国務長官が金正日総書記と会談。
■2005年9月19日、第四回六者協議。核問題解決と朝鮮半島平和問題を一括で解決する『共同声明』発表。
■2018年6月12日、トランプと金正恩がシンガポールで会談。共同声明。しかし2019年2月、ハノイでの会談で合意に至らず。
■バイデン政権は無策であり、朝鮮半島問題に関わる余裕がない。

ーむすびに:新情勢の中の朝鮮半島の課題
■米中を中心とする「新冷戦」は地球規模の影響。
■日本は日米同盟を強化し、日中関係は停滞する可能性がある。
■韓国は安全保障は米国、経済は中国という二股戦略。
■その結果、南北関係、米朝関係、日朝関係は停滞。
■中国・ロシアは米国と対立し、朝鮮半島問題に取り組む余裕なし。
■北朝鮮は核・ミサイル開発を放棄するはずはない。
■東北アジアは混迷期に入っている。
■朝鮮半島問題はプライオリティが低下。米日韓が結束すれば、北朝鮮と中国・ロシアが結束して対抗する可能性。対話による解決が難しくなる。
■ロシアのウクライナ侵攻が朝鮮半島問題解決に不利な条件を作っている。
■朝鮮半島問題の解決は長期化を避けられない。

朝鮮半島の平和と統一を目指す新しいアプローチ
①平和維持を優先し、統一プロセスは長期的(30〜50年)に考える。
②非核化を優先すると難しい。国際社会全体の核軍縮プロセスの中で長期的に解決を模索する。
③韓国や日本は制裁解除を訴えるべき。
④北朝鮮の経済や民生を優先。経済協力、対外開放をうながす。国際社会に組み入れる努力。いわゆる「平和沿革」戦略を考える必要がある。

ー質疑応答
Q.中国と、米国を中心とする西側諸国では、自由や人権の意味が異なる。中国では普遍的な自由や人権という考え方を取り入れる可能性はあるのでしょうか?
A.中国としては、すべての面で民主化を成し遂げ、米国の民主主義よりも優れていると考えている。自由も制限していないと主張している。我々は我々の選挙をやっている、など。従って今の共産党が存在する限りにおいて、自由主義の考え方を受け入れる可能性はほぼゼロである。

Q.中国は朝鮮半島が分断されている方が有利だと見ているのでしょうか、それとも朝鮮半島の統一に向けて何らかの働きかけをしているのでしょうか?
A.中国は公式的には朝鮮半島の統一をサポートするという立場をとっている。しかしどのような国として統一するのかによって中国の立場や対策も変わってくる。中国が行っている一国二制度のような、今の南北政府を残したまま、以前話し合っていた高麗連邦を作るというような話であれば、中国はそれほど反対する理由はない。韓国による北朝鮮の吸収合併となれば、在韓米軍が中国との国境線沿いまで来ることになり、大きな脅威と感じるため、絶対に反対する。

Q.中国は朝鮮半島が統一する際、どのような国になることを望んでいますか?
A.中国にとって北朝鮮は米国と対抗する上でバッファゾーンではあるが、一方では大きな負担になっている。中国の指導者や学者もよく言っている。北朝鮮が困ったときには中国から援助してきた。1986年、鄧小平は金日成と金正日に対して、北朝鮮の経済はこのままの社会主義経済では滅びるため、中国のようにすることを提案したが、金正日が「修正主義」だと反発したという過去がある。中国としては北朝鮮がもう少し経済的に発展して、その上で平和統一すれば良いと考えているのではないだろうか。北朝鮮は主体思想をもって、中国やソ連に従属しない国。中国は北朝鮮に対して気を使いながら指図することは控えてきた。

Q.北東アジアに平和を構築する上で、日本の役割は何でしょうか?
A.かつては日本が高度成長して、2000年くらいまでは役割があったと思う。しかし今の日本の国力や政治家の質からすると、厳しい言い方をすれば、積極的な役割がないわけではないが、平和を壊すことをやらないことが役割ではないかと思う。今の日本は同じ民主主義国家である韓国とも敵対しやすい。北朝鮮とは国交がない。米国との同盟を優先することで中国とも関係悪化。田中角栄が日中国交正常化する際に、「台湾は中国の一部」と認めたが、安倍首相が「台湾有事は日本の有事」と言って、これは中国にとってはいい加減な話で、中国を刺激している。80年代、90年代のように平和外交を目指していくべきだと思う。今は残念ながらそのようなリーダーが存在しない。そういう方向に行かない限り、大きく平和構築を主導する役割は難しいのではないかと見ている。

Q.中国が一帯一路政策で得ようとしているものは何でしょうか?
A.経済的な面では、中国は西に向かってお金をばら撒いて味方につける。かつては資本がなくて欧米諸国から資本を取り入れたが、今は中国も国内資本が溜まっているので、資本輸出して、そこで利益を得る。次に戦略的な面で、西側諸国とはやはり価値観が違い信頼関係を築くのが難しい。そこで中国が連合できるのはロシア、中央アジア、東南アジア、インド、中東、アフリカなど、西に向けて力を入れているのが一帯一路。中国の開発援助額は、日本のODAの額を超えている。賄賂とまでは言えないが、色々なプロジェクトをしながら、その国のリーダーたちを買収している。これまで2000億〜3000億ドルのお金を投資してきたが、問題はこれから。米国の対中貿易戦争、コロナによる不況など、中国の懐事情が悪くなっている。中央政府の財政が赤字になりかけている。地方政府は完全に赤字。他国を支援する余力が無くなってきている。お金で出来た縁が、お金がなくなって切れる可能性がある。

Q.朝鮮半島が統一された場合、金一族の処遇はどのようになるでしょうか?
A.韓国による一方的な吸収合併が起こる可能性は低い。現政権を認めた上で、一国二制度になる可能性が高いのではないかと思う。もちろん突発的に何らかの事件が起きて戦争になれば、北朝鮮は潰れる可能性が高い。ただし北朝鮮は核ミサイルを持っているので、戦争は簡単には起こり得ない。したがって30年、50年をかけて平和統一していくのではないか。そうであれば、金一族はそのまま存続することになる。

Q.最近の北朝鮮と東南アジア諸国はどのような関係性ですか?
A.あまり情報を持っていないが、金正男毒殺事件があり、それ以来、ASEAN諸国は北朝鮮を警戒するようになっている。20年ほど前であれば、北朝鮮は156カ国と国交を結んでいた。日本から見て孤立しているように見えるのとはギャップがあった。しかしその後は東南アジアも含め、関係が冷え、警戒するようになっているのではないかと推測している。

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