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オンラインセミナー「多文化共生社会を考える~国際交流協会の現場から~」を行いました2022.10.27 | 

GPF Japanでは毎月、様々な講師の方をお招きし、オンラインセミナーを開催しています。今回は多文化共生をテーマに、多文化共生の現場で活動されてきた石綿晃さんを講師にお招きしました。講演内容を以下に要約してお伝えします。

ー自己紹介

■東京都の国際交流委員会の事務局長を昨年(2021年)3月まで務めておりました。
■その前は目黒区の国際交流協会や社会福祉法人、目黒区・大田区の職員や管理職などをしておりました。
■研究者ではありませんので、学術的な考察ではなく、現場の声をお伝えします。

ー悲しい報道
■10日ほど前、「ベトナムの実習生に賃金未払い」という記事が出ていました。
■この事業者さんは感染防止用のガウンを生産している、国からも発注を受けていて一定の評価を受けているところなのに、実習生に賃金未払いが生じたということです。
■私の知っているベトナムとの関係を築いてきた団体が仲立ちしていただけに注目していたのですが、今でもこういうことが現実としてあります。

ー私が実感してきたこと(外国人住民)
■目黒区の外郭団体である国際交流協会の事務局長として就任して、すぐに感じたことがあります。
■目黒区の人口はバブル期に一回落ち込みましたが、その後、1~2%ずつ増えてきました。一方で外国人の方々は5%くらいずつ、ずっと増えてきています。
■目黒区国際交流協会では、外国人相談窓口の相談窓口が2013年度は2,500件程度の相談件数でした。ところが5年後にはこれが4,500件くらいにまで増えました。
■もう一つ気になっていたのは、留学生のこと。日本は留学生の受け入れを30万人を目標にやってきて、2019年にはその目標を達成しました。一方で海外留学する日本人留学生は、受け入れている人数の三分の一くらい(10万人程度)しかいません。
■かつては日本人留学生の方がずっと多かったのに、日本の若者が留学しなくなっています。海外で勉強した方々が日本社会に出ていくという大事なことが少し薄れてきました。

ー今さらですが、多文化共生とは?
■「多文化共生」という言葉はもともとあった言葉ではなく後からできた言葉ですが、定義は何でしょうか?

ー地域における多文化共生プラン
■2020年9月に、多文化共生プランというのが改訂されました。今は国からのこういった促しがあって地方自治体で取り組んでくださいということになっています。
■改訂のポイントはまず「新たな日常」とありますが、外国人を地域社会の一員として受け入れ、多様性のある社会実現を謳っています。
■また3.11の経験もあり、災害時のことも意識されるようになっています。
■日本語教育の推進に関する法律ができて、それに基づいて日本語教育を進めていこうということになりました。
■「外国人住民による地域の活性化やグローバル化への貢献」ということで、お客さんじゃなく、一緒になって日本社会に貢献してもらいたいという思いが込められています。地域においては自治会活動や防災活動など、外国人が担い手となるような社会が必要と言っています。
■旧プランと比較して、今までやってきたことを一歩、先へ進めた改訂プランになっています。

ーあの東京都が!
■実は東京都は多文化共生という面で非常に遅れているところがありました。非常に細々とやっていたのですが、平成28年(2016年)に「多文化共生指針」というのを打ち出しました。
■東京都の在留外国人が50万人近くなり、オリンピック・パラリンピックが開催されるというのが大きな背景としてあり、東京都が出した指針は非常に注目されました。
■日本人でも外国人でも安心して暮らせる社会を実現していこうという指針です。私はこの指針づくりに関わってきて、やっと東京都が始動したと、とても嬉しく思いました。
■指針の中で、「地域において共に生活する」ということを超えて「東京で共に活躍する」という目標を掲げることができました。

ーつながり創生財団
■加えて、東京都が2020年に財団を作ってくれることになりました。
■多文化共生は多くボランティアに依存している分野であり、また、オリンピック・パラリンピックの際に累計15万人のボランティア人材がいた、その文化を継承する必要があるということで、それらが相まって、この財団が設立されました。
■相談業務、ポータルサイトでの情報発信、日本語教育のための講座やネットワークづくりなどをしており、一番大きいのは「やさしい日本語の普及啓発」です。
■都内には外国人支援団体がたくさんできていましたので、それらの連携ネットワークを強めること。災害時の外国人支援ネットワークづくりにも取り組んでいます。

ー覚えていますか?コロナ前の成人式
■東京都では、新成人の8人に一人が外国籍でした。新宿区では45.7%、なんと約半分が外国籍でした。すごいことです。そして外国人の方のほうが成人式に来る割合が多かったので、会場ではすごく外国人が目立ちました。
■もう「多文化共生」どころではなく、当たり前のように外国人の方々と一緒に暮らしているという状況です。

ー加速化する人口減少
■背景には、日本が人口減少社会に入っているということがあります。
■東京でも23区では昨年、人口が減って、びっくりしました。
■日本の人口は1億2,000万人から2060年には9,000万人程度になってしまうそうです。2060年頃には毎年、政令指定都市ひとつ分の人口がいなくなるということです。
■もう、「少子高齢化」ではなく「少子高齢社会」です。15歳未満人口はどんどん減り、65歳以上が4割近くなってしまいます。

ー人口減少と変化する社会
■人口が減少すると、学校が閉校になり、2003年以降、毎年400校程度が減ってきていました。
■2002年〜2017年の期間に7,583校、減っています。東京でも303校です。
■地方鉄道や地方バスは8〜9割が赤字です。このままでは当然、それらの公共交通はなくなってしまいます。
■反対に「道の駅」はヒットして全国に1,200程度まで増えましたが、ついに廃駅になるところが出てきました。地方創生の拠点になっていましたが、需要が減ってきました。

ー経済の観点から
■日本のGDPは一時期アメリカにも肉薄して世界二位になりましたが、今は中国に抜かれました。
■一人あたりGDPでは23位の430万円。そういう意味では「豊かな国」ではなくなってきています。

ー自治体の人口減少の考え方
このまま人口減少していくと・・・
■社会保障の行き詰まりがきます。労働人口が減ると立ち行かなくなってしまいます。
■税収が下がり、経済成長率が低くなります。
■貯蓄ゼロの家庭が増えていくと言われています。
■労働力が不足しています。
■都市中心部の空洞化
このようなことが考えられます。

しかしこれを積極的な意味で視点を変えてみると・・・
■新たな社会経済システムを作っていくきっかけになる
■公的部門の見直しと新しい公共
■知恵やオンリーワンで生きていく
■一人当たりの所得増大の重要性
■女性や高齢者の社会進出にはうってつけの状況
■ゆとりのある土地や住宅、自然環境
このように機会として捉えることもできます。

ーコロナ前政府方針(2018年)
■このような状況の中、政府が行っている対策の中で、多文化共生との関わりでは、「外国人人材の活用」というものがあります。
■在留資格を増やしていくこと。
■日本で就職したいという希望者の半分程度しか実際には就職していない現状があり、日本でもっと働いてもらおうということです。

ー経済財政諮問会議
■「いわゆる移民政策はとらない」と出だしに言ってしまっています。
■人手不足に対しては、特定技能を在留資格に加えるという形をとりました。
■しかし在留期間の上限があったり、家族の帯同は基本的に認めないなどがあり、人権の面でも、家族が来てはいけないというのはおかしいのかなと感じます。

ー経済財政運営の基本方針(骨太の方針)
■新たな在留資格を創設し、単純労働分野での労働者の受け入れ、特定技能など、2025年までに50万人の受け入れ、としています。
■しかし日本は今、25万人ずつ人口減少しているので、これだけでは埋められません。
■現状としては、在留外国人は1年間で7.5%(18万人)ほど増加し、受け入れとしては円滑に進んでいます。

ー経済財政運営と改革の基本方針2018
■法務省は外国人との共生社会実現のために、5年間のロードマップを作ってくれました。
■ロードマップが目指す社会として、安全・安心な社会づくり、多様性に富んだ活力ある社会、個人の尊厳と人権を尊重した社会、とあります。
■法務省は人権を守るという観点を持ってくれていてありがたいと思います。
■外国人在留支援センターという東京の大きな拠点が二年ほど前に開設されました。
■外国人支援の窓口を入管がもっているというのはすごいことで、今まではどちらかといえば取り締まりをやっていたのが、外国人支援をするためのセンターができました。
■東京都の外国人はコロナで3万人近く減りましたが、それでも50万人を超えています。
■移民政策ではないといいつつも、2018年時点で日本は世界で第4位の移民大国になっています。

ー外国人受け入れ反対論
■移民受け入れの前に、女性や高齢者の活用ではないか
■犯罪が増えるのではないか
■雇用が奪われてしまうのではないか
・・・などの意見があります。

■しかし、女性は30代でもずっと働き続けている(M字カーブはない)
■外国人は増えているのに、実際は外国人による犯罪は減っています。

ー自治体の腕の見せどころ!
■外国人登録制度がなくなり、日本人と同じ住民登録をして自治体が管理する形になっています。(マイナンバーとの関係もあるかも知れませんが)
■住民登録をするということは、すべからく地方自治体のサービスを受けていただくということ。
■したがって、外国人の方々へ向けては、自治体の腕の見せ所。外国人の方々と一緒に暮らしていくというのが街づくりの基本になっていきます。
■「足による投票」という言葉があります。よいサービスを提供している自治体には、住民が移り住んでくるようになります。
■自治体のサービスを競う時代になりました。
■多文化共生というのは、街づくりそのものです。

ー外国人8つの貢献期待
1.世界への情報発信
2.異文化の紹介
3.NPOのリーダー
4.地域イベントのリーダー
5.地域経済の新たな活力
6.地域経済の下支え
7.日本文化の担い手
8.新たな価値観とライフスタイルの導入

ー多文化パワー
■ざまざまな経験、文化、異なる意識を持つ外国人の隠された潜在力を発揮することで、彼らの能力が活かされ、また周囲の日本人との間でWin-Winの関係によって地域の活性化が図られること。
■基本となるのは、日本人にとっては人口減少・高齢化についての危機感を認識し、外国人の受け入れは必須であるということをまずは頭においてほしいです。
■異文化で地域の活性化を導く触媒役である、正規入国外国人の増加を歓迎することが必要です。
■交流を通して偏見を除去していくことが大切です。

ー3つの壁と言われています
■制度の壁:在留資格の新設で徐々に壁が低くなっています。
■言語の壁:やさしい日本語の普及、日本語教育についての法律も出来て、これも少しずつ減っていくのかなと感じます。
■心の壁:最後に残るのがこれ。外国人に対してちょっと身構えるところがあります。日本語で道を聞いても「英語はできません」と逃げられることがあると聞いたことがあります。心の壁をなくしていくことが、これから一番、大切だと感じます。

ー外国人支援の地域サポーター制度
■多文化共生のためのビジョンづくりのために、多文化共生区民フォーラムというのをつくり、提言をまとめました。
■外国人支援の地域サポーター制度というのを提唱しました。
■区役所の相談窓口は敷居が高いので、民生児童委員のように、外国人の方が「ちょっと困った時に、相談できる人」が街にいると、住みやすくなるのではないでしょうか。
■地域の日本人も、そういうサポーターが間に入ってくれると、外国人の方と一緒に何かやる時に助かるでしょう。

ー私の願い
■多文化共生社会が行き着く先は、世界平和です。
■多くの国で多文化共生社会が実現できると、相互理解が進み、お互いをよく知ると、友達になり、ケンカをすることもあるかも知れませんが、戦争などの争いに発展することは少なくなるのではないでしょうか。
■ユネスコ憲章:「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」
■外国の方にも心の壁をつくらない、そういった心が大事であり、平和の心を持っていくことが、多文化共生社会ではないかと思っています。

ー質疑応答
Q.文化や言語の違う人たちと距離を近くして仲良く暮らすために、一番心がけるべきことはなんでしょうか?
A.心の壁を取り除いて、友達になる、親友になるというか、心を通わせることが大切。そしてその時に、相手の懐に飛び込んでいくこと。お世話をするとか助けると思うと、どうしても一線を画してしまう。そうじゃなくて同じ地べたに一緒に座っている人間という意識でいると良いと思います。目黒では消防団の分団の副団長をしている方もいた。生活を共にするという意識が大切です。

Q.多文化共生を自然と身につけるために、少年期・青年期の体験が大切だと思いますが、良い提案がありましたら、お聞かせください。
A.正にその通り。NPO法人あおぞらでは、子どもを軸にして多文化共生社会づくりに寄与していくことを目指して設立しました。大人は頭で考えるが、子どもは肌で感じます。子どもたちは国籍に関係なく親しんで遊んだりします。多文化共生社会を意識しながら子どもたちを支援していく。地域社会で一緒に楽しいことをやりながら、子どもたちも一緒に暮らしていくことが大切だと思います。

Q.今後の日本が多文化共生社会を目指すことには賛成ですが、現政権は技能実習生を利用して利権を獲得しようとしている動きが見られます。この動きをどう思われますか?
A.安倍政権の時に、「いわゆる移民政策ではない」という言い方をしていました。その名残がまだあります。特定技能であるとか、実習生は、とても条件がきついです。技能実習生というのは海外から日本に来て技術を身に着けて、母国の発展のために寄与するというのが本来の目的。しかし農業分野などでは、「低賃金労働者」としてしか見ていないところがあります。また、間に斡旋業者がはいっており、複雑な制度になっています。Win-Winの関係を作るには制度がまだ厳しいのかなと思います。ただここ数年で在留資格が増えたり、制度が変わってきて、徐々に制度の壁が下がってきています。市民の声を大きくしていくことで、政府も動き出します。東京都の姿勢も積極的になってきています。日本人と同じように地域で活躍し、日本人と同じように幸せになっていく、そのために一人ひとりの声が大きくなっていくことが大事じゃないかと思います。

Q.中国人が土地を買い占める問題があります。純粋に日本に学ぶために来る人と、何か別の目的があって来る人を区別することは可能ですか?国ではどのような対策をしているのでしょうか?
A.中国の方がよく日本の農地や森林を買ったり、水源地に近いところを買ったり、ということが新聞やネットで流れています。実際にあることだと思います。この辺りが多文化共生とか国際化・グローバル化という時の難しい問題の一つです。バブル崩壊前を思い出してみると、東京23区の土地の評価額でアメリカ全土が買えると評価されていました。ロックフェラー財団所有の土地やカーネギーホールを日本人に買われてしまうのではないかと言われていました。日本の企業がニューヨークの土地を買ったりしました。アメリカは自由な国なので、危惧がありながらもバッシングは起こりませんでした。
ただアメリカなどは重要な場所は国や自治体が押さえていたりします。どんな土地でも規制をかけるということは出来ないが、ある程度重要な土地(公共性の高い土地や立地)に関しては、日本でも規制をかける法律ができてきました。治山治水、インフラ、電力、自衛隊や米軍基地周辺などに関しては規制して行っても良いと思います。
一方、タワーマンションを中国の方が買っても良いのではないかと思います。

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