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第7回ピース・デザイン・フォーラム〜北東アジアの平和構築の新視点とアプローチ〜を開催しました2024.11.08 |
2024年11月2日(土)、文京シビックホール(小ホール)にて「北東アジアの平和構築の新視点とアプローチ」をテーマに、第7回ピース・デザイン・フォーラムが開催されました。多くの参加者が集まり、北東アジアの現状と平和構築に向けた意義深い議論が展開されました。
フォーラムは、和太鼓奏者・千代園 剛氏による力強い「音開き」で幕を開け、会場全体に一体感が生まれました。その後、第一部では3名の専門家による講演が行われ、地域の安全保障や人権問題に関する洞察が深められました。
以下、3名の専門家による講演の内容をまとめてみました。
◾️五味洋治氏(フリージャーナリスト)
五味氏は、ロシア・ウクライナ戦争で既に7万人以上の犠牲者が出ており、その家族が大きな負担を背負って生きていく現実を指摘し、戦争がもたらす悲惨さについて言及しました。
また、北朝鮮がロシア側に兵士を派遣したことからも、朝鮮半島の緊張がかつてないほど高まっていると述べ、過去30年間で見られなかった緊張が今起きていると警鐘を鳴らしました。
さらに、日本も朝鮮戦争に関与しており、特需で経済的利益を得ただけでなく、日本人兵士も参加していた事実が明らかになってきていると説明しました。日本には、朝鮮半島有事の際に多国籍軍が出撃できる拠点もあるため、朝鮮戦争が日本の在り方に与える影響は大きく、戦争が終わることで日本も国の在り方を見直す契機になると述べました。
そして、日本人も隣国の安定と平和に責任を持ち、朝鮮戦争の終結に向けた役割を積極的に果たすべきであると訴え、北朝鮮の人権問題を国際社会に訴え、韓国との関係を強化し、対話を重視する姿勢が重要であるとしました。
◾️姜英之氏(東アジア総合研究所 理事長)
姜氏は、幼少時に真鍮や銅線などの廃材を集めて隣の古物商のおじさんに買ってもらっていた経験があり、それが朝鮮戦争に関係する物資だったことを後に知ったとし、戦争が幼少期の日常に影響を及ぼしていたことを述べました。
朝鮮半島の平和統一と東アジアの平和のために30年以上研究所を運営してきたと語り、挫折しそうになっても続けてきた理由として、朝鮮戦争が今も終わっていないという現実を挙げました。
北朝鮮は追い詰められ、いつ戦争が始まってもおかしくない状況にあるとし、核を使用させないための真剣な対話が必要であると強調。アメリカと韓国も一歩も譲らない態度を取り続けていますが、かつてのアメリカの北朝鮮政策担当者ロバート・ガルーチ氏が「アメリカは30年間北朝鮮政策に失敗してきた」と指摘したことを引用し、核戦争の危機が現実的なものとなっていると警鐘を鳴らしました。
また、北朝鮮が以前の延坪島砲撃事件のように武力衝突を仕掛け、核戦争に発展するリスクがある中、日本人も日本とアジアの平和について真剣に考えるべきだと訴えました。
◾️後藤亜也氏(一般社団法人グローバル・ピース・ファウンデーション・ジャパン 代表理事)
後藤氏は、ロシア・ウクライナ戦争やイスラエルとガザの問題など、戦争は譲れないアイデンティティが原因となり発生することが多いと述べました。人々は何らかのグループに属し、そのアイデンティティが否定されると暴力的な対立が生じやすいとし、このような紛争を「アイデンティティ・ベースド・コンフリクト」と呼んでいます。
後藤氏は、紛争を解決するためには共通のアイデンティティや共通のビジョンを見出し、協働することが重要だと強調し、信頼を築くことで平和を構築する「GPFのアプローチ」を説明しました。
このアプローチをもとに、GPFでは朝鮮半島の平和統一を目指す「コリアン・ドリーム」を提唱。これは古くから朝鮮民族が共有してきた「弘益人間」(広く人間社会に益をもたらす国家を建設するという意味)のビジョンを南北が共有し、互いにWIN-WINとなる平和な統一を目指すものです。
2025年は光復節80周年、日韓国交回復60周年にあたり、日韓協力と国際社会の支援を得て1000万人の支持を集め、コリアン・ドリームの実現を目指していると述べました。
このビジョンの実現は、日本にとっても安全保障上のリスク低減や経済発展の可能性をもたらし、北朝鮮の人権問題の解決にもつながると説明し、日本人が隣国の平和に対して積極的に関心を持つことが重要であると訴えました。
第二部のパネルディスカッションでは、飯田和広氏がファシリテーターを務め、パネリストと参加者が共に考えを深める時間となりました。以下に要点をまとめてみました。
Q:普遍的価値を中心とした日米韓のパートナーシップと対照的に、中国、ロシア、北朝鮮という普遍的価値観を受け入れない国との差異が明確になりました。普遍的価値を中心として、日本、大韓民国が協調していくためには、それぞれの国はどういった意識を克服していく必要があるでしょうか。
後藤:日本や韓国では「普遍的価値」という言葉を「言葉化」して説明することが不得意。今一度、「言葉化」する努力が必要だと思う。そうすることでもっと分かりやすくなれば世界が支援しやすくなるだろう。
姜:よく「普遍的価値」とマスコミで言うが、問題を多く含んでいると思う。いわゆるブルジョア民主主義に対する反対概念として、「それは金持ち連中の資本主義だ」と社会主義勢力は言ってきた。さらにそれに対する反論として「自由民主主義」という言葉を使ってきた。そういう中で韓国も日本やアメリカと仲良くするために「普遍的価値」ということを言っているのだが、この概念ではなかなか、北朝鮮との統一というのは難しい。自由民主主義による統一というのは北朝鮮から見ればやはり韓国による吸収統一であって、難しい。昨年から金正恩が「大韓民国」という言葉を使い始めているが、ある意味では統一の前段階としてお互いの体制を認め合うところからという肯定的な面があるかも知れないと思って見守っている。
五味:日本人はかつて共通項によって団結して戦争に駆り立てられたということで、拒否感を持つ人がいるかも知れない。欧米では異なる人々が共に暮らしてきたので、何か共通点を探す必要があった。愛国心とか自由とか共通点を探すのが得意なところがある。日本ではなかなか難しいのだが、少子高齢化とか、子どもの教育とか、探せば共通点はたくさんある。イデオロギーなど大きなところで共通点はなかなか見出せないまでも、ミクロなところでは中国やロシアでも(人間として)同じような課題を持っていて、共通している。そういう部分を探すのも重要ではないか。
Q:分断から80周年を経た今、南北双方の国民はもちろん、在外コリアンに対しても統一がもたらすベネフィット(利益や恩恵)を訴えていく必要があるかと思います。お三方が考える統一によるベネフィットをお話しいただけますか。
五味:隣の国が一つになって発展すれば、日本にも経済的なプラスがある。ただ一部には、巨大な反日国家が生まれるという反対意見がある。しかし実際に統一されれば、一緒に発展していくということに国民の目がいくと思う。
姜:なんと言っても統一は断ち切られた人間同士の回復であり、家族の再会だと思う。もう一つは、尹政権では「自由統一」というが、その言葉はあまり有効性がないと思っている。かつて李承晩大統領は「反共統一」と言った。国際的な対決がそのまま朝鮮半島に持ち込まれてしまった。それを彷彿とさせる面で、時代錯誤というか、北朝鮮は徹底的に反発するだろうと見ている。「窮鼠猫を噛む」ということになりかねない。資本主義と社会主義のお互いの良いところを取り合って、第三の周辺国すべてが受け入れる新しい社会建設をしていく必要がある。韓国にも北朝鮮にもさまざまな問題があるため、それを乗り越えて新しい社会を築く。
後藤:在日コリアンの知人が、「朝鮮民族の悲願である統一を日本がサポートするようになれば、過去のさまざまな恨みを帳消しにすることができる」と話していた。今、私たちがどうするのか、どのようなアプローチで臨むのか、それが将来のベネフィットを決定する。
今回のフォーラムでは、北東アジアの平和構築に向けた新しい視点とアプローチを共有すると共に、参加者が自らの役割を主体的に考える機会を提供しました。今後も、平和を主体的にデザインする場を提供し続ける予定です。