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【インタビュー:多文化をチカラに⑧】 嘉山仁さん(カフェオーナー/介護サービス会社役員/NPO法人代表)2022.12.01 |
My Eyes Tokyoの協力のもと、日本で多文化共生を推進する方々へのインタビューを紹介していきます。
https://www.myeyestokyo.jp/60167
海外から来る人たちを受け入れるなら 視野を日本だけでなく 世界に広げて現状を見つめなおそう
ある日Facebookを眺めていた時、インドネシアから技能実習生を受け入れている介護事業者が経営するカフェについて紹介していた私たちの友人の投稿を見つけました。実習生にとって少しでも生活しやすい環境を提供しようと、インドネシア料理の提供や現地の食材の販売、さらには礼拝所まで設置してあると言うのです。
興味を持った私たちは、その投稿に「My Eyes Tokyo的にぜひ伺いたいです!」とコメントし、そのすぐ後にカフェにコンタクトを取りました。そして今年(2022年)10月末、神奈川県横須賀市ののどかな田園地帯にあるカフェ「HARAPAN」に伺いました。
礼拝所やウドゥ(礼拝の前に体の一部を水で洗う場)を備え、礼拝の時間にはアザーン(肉声で行われる礼拝への呼び掛け)が流れる空間。私たちは中華麺を加えた肉団子スープ「ミーバッソ」をいただきながら、この場所を作った株式会社スマイル常務取締役の嘉山仁さんにお話を聞きました。
学生時代にアジアを放浪したご経験を持つ嘉山さんは、その後介護業界に入ります。海外とは一切無関係に思われる日々の仕事、しかし国際交流や異文化理解と大変興味深い共通点があることに気づいたと嘉山さんは言います。さて、それは一体何でしょうか?
全ての人たちの”希望”の場所に
かつて僕がバックパッカーだった時代、知らない土地で人々から親切を受けた一方、文化の違いに直面して心身を壊しかけたこともありました。それらの経験から、日本という国を海外の人たちの視点で見てみると、レストランに英語のメニューが少ないなど、日本国外の人たちに対して必ずしも親切であるとは言えない。大変優秀で、介護職に就いている僕たちにとってとてもありがたい存在である彼女たちと、彼女たちが今住んでいる日本との間に存在する課題について考え、その末にたどり着いた答えが”食”と”礼拝”でした。
日本のスーパーやコンビニなどで販売されている食べ物の多くに、ムスリムが口にしてはいけないアルコールや豚由来の原料が含まれています。節約のために自炊する彼女たちにとって、どの商品を買えば良いのか分からないのは大きな不安でした。また日本に長く住むようになると、故郷の味が恋しくなるものですが、横須賀周辺にインドネシア料理店は一軒もありません。さらに、日本に来た後も自分の文化や生活習慣を大事にしている彼女たちにとって、礼拝ができる場所も必要不可欠。そこで僕は、彼女たちがより日本での生活を送りやすくなるような場所を作ろうと思いました。それがこのカフェです。
”HARAPAN”はインドネシア語で”希望”。いくつか挙げた名前の候補から「あらゆる人たちにとって希望の場所になるように」という思いから、このカフェの名前として実習生たちに選んでもらいました。また彼女たちには”自分の場所”として愛着を持ってもらえるように、店づくりにも参加してもらい、今年4月1日にオープンしました。
諦めかけていた夢、再び
僕は長らく介護の世界に従事していますが、学生時代はリュックサック1つでアジア各地を放浪していました。そのため”世界とつながる仕事”に憧れていましたが、旅の資金を稼ぐために、身一つでできる訪問入浴の仕事にアルバイトとして就いたことをきっかけに介護の世界へ。その後2000年に制定された介護保険制度により介護への需要が拡大し、僕も仕事に懸命に取り組みました。一方で世界の人たちと一緒に仕事をするという夢は胸の奥にしまっていました。
やがて農業や漁業、建設などの業界で海外から受け入れていた技能実習生を、2017年から介護業界でも受け入れることができるように。一度は諦めた”世界とつながる”という僕の夢が、決して夢ではなくなると思い興奮しました。
それまで日本は、介護の先進事例を北欧から学んでいましたが、一方で世界各国に先んじて高齢化社会を迎えた日本には、そのノウハウが蓄積されています。それらを将来高齢化を迎える国々に還元することに意義を感じました。中でも国民の平均年齢が29歳と若々しく、2045年に世界第5位の経済大国になることを目指す、希望に満ちたインドネシアとつながることで、僕らが助けてもらうだけでなく、僕らが試行錯誤する中で培った経験やスキルを彼らに提供させていただく。そうすればインドネシアが高齢化社会を迎えた後も、現地の人たちが幸せに暮らすためのお手伝いができるのではないか – そう考え、インドネシアからの実習生の受け入れを決めました。
そして2019年2月、弊社初となる実習生5名が海を越えて日本へ。コロナ禍のため日本での受け入れ態勢が整わず、そのためインドネシアから日本への送り出しが停滞したこともありましたが「母国の将来を担うために学ぶ」という意識の高い人たちを、これまで合計約20名を受け入れてきました。
毎日きまった時間に礼拝の合図(アザーン)が流れる
あらゆる場所に希望の種を
彼女たち技能実習生たちは、この業界を支えてくれる大変貴重な人材。しかもこれから高齢化を迎えるインドネシアで介護業界をリードする存在になると思うと、日本だけでなくインドネシアの未来までも僕らは託されているわけです。だから彼女たちにとって日本がさらに暮らしやすくなるための土台を築かなければならない – 僕はそのための場所を作ることを考えました。
まず僕は、モスクのような大きなスペースが必要だと思いました。横須賀周辺にはモスクは無く、最も近いところでここから約50キロ離れた横浜モスクしかありません。「三浦半島にも1つくらいはモスクがあっても良いのではないか」と思いましたが、大きなスペースが必要なのか、また建設の際にはどこに許可を取れば良いのか見当がつかず途方に暮れていました。
そんな僕に、実習生の1人が”ムショラ”という小さな礼拝所について教えてくれました。さらに弊社がお世話になっている技能実習生の送り出し機関によれば、飲食スペースとムショラを併設したレストランが宮城県気仙沼市にあるとのこと。港町である気仙沼は、主に漁業関係者が技能実習生を受け入れており、夏にはインドネシアの民族衣装を着飾った人たちによるパレードまで行われるほど、現地とのつながりを深めています。そんな街にあるレストラン「Warung mahal」に、インドネシア人通訳と一緒に視察に行ったところ、コンテナを改装して作ったムショラがレストランの一角にあり「これなら僕らにもできる」と確信しました。
僕らは横須賀市内で場所を探し、かつて日本料理店だったスペースを見つけました。実習生と一緒に改装や清掃をして、今年4月1日にオープン。そのすぐ後の4月3日にラマダンが始まったため、実習生にはとても喜ばれました。その後は弊社の実習生だけでなく、農業を学びに来日したインドネシア人や、店のSNSを見た人たちにもご利用いただいています。
実際に地方からも、同じく介護業界で働かれている人たちがHARAPANに視察にいらっしゃいます。僕は日本の至るところに、HARAPANのような場所ができることを願っていますし、そのためのお手伝いも喜んでさせていただきたいと思っています。
中華麺を加えた肉団子スープ「ミーバッソ」。ソースで”味変”を楽しみながら、揚げワンタンと一緒にいただきます!
カフェのそばで作られた陶器。実習生には無償で提供されている。
目の前にいる人に向き合おう
弊社は主に認知症の人たちの介護に取り組んでいます。彼らに接することと、海外から来た人たちに接することには共通点があります。それは”相手を知ること”。それだけで自分との間にある壁が外れていくことを感じます。認知症の人たちへの偏見は、その人たちに会って触れることで徐々に無くなっていくものですが、それと同じようにイスラム教に対して偏見を抱いていた人が、弊社が受け入れている実習生に会うことで、宗教への理解を深めていくのを、僕は何度も見ました。
さらに言えば、弊社の施設に入居している認知症の人たちが、ヒジャブを被っている実習生に対してネガティブな反応を示したことは一度もありません。むしろ「きれいな布ね」とヒジャブを褒めたり、彼女たちの笑顔を愛しく思ったりします。「見慣れない布を巻いている人たちを介護の現場に入れて、果たして入居者さんたちは受け入れてくれるのだろうか?」という懸念は、正直に申し上げて弊社にもありました。しかしそれは全くの杞憂でした。理屈や知識ではなく感性で人と接する認知症の人たちにとって、彼女たちの外見のことは全く問題ではない。彼らは実習生たちの中身を感じて、自分の娘や孫のように可愛がってくれています。
そのような人たちに、実習生たちも励まされていると思います。認知症の人たちとのやり取りは、ほとんど言語を介しません。言語スキルよりも、目の前にいる人に興味を持つことの方が大事です。実際に現場に入って2~3日目の実習生が入居者さんたちと接する場面を見ましたが、ひたすら相手が伝えようとしていることを一生懸命理解しようとする。そんな彼女を入居者さんたちが愛しく思い、お気持ちが穏やかになっていくのを、僕は感じたのです。
Think global, act local
僕が介護業界に入った年齢とちょうど同じくらいの若い女性たちが、国の将来を背負ってインドネシアから日本に来ています。僕は彼女たちのお父さんのような感じで、恋愛や結婚など様々な相談を受けますが、やがてはこの街で家族を築くくらいに、彼女たちには横須賀を好きになって欲しいですね。彼女たちは介護業界だけでなく、人口の減少という課題を抱えるこの街にとっても大きな財産です。
そのためには、「若い労働力だけちょうだい」と自分の利益を優先して考えるのではなく、相手の文化を丸ごと受け入れる姿勢が必要になると思います。それにはゴミ出しなどのルールの簡素化も含まれます。日本人側で作ったルールを守れないからと言って、海外から来た人たちを疎外するのは、認知症の人たちが家庭のルールを守れないから施設に入れるのと同じ発想のように感じます。
街のアピールも、それまで日本人のみ相手にしていたものを、海外の人たちにも届くようなものに変えていく必要が出てきます。例えば物件を紹介する場合、日本人が重要視する”駅から徒歩〇分”というのは、職場のすぐそばに住む傾向がある海外出身者たちにはほとんど関係ありません。それに日本人ほど湯舟に浸かる習慣が無い人たちにとっては、ユニットバスの部屋でも問題ない。それよりも皆が集まったり、ウドゥや礼拝をしたりするスペースがあることの方が重要です。彼らが大事にすることを、彼らの視点に立って考える必要があるでしょう。
移民の受け入れを議論している間にも、日本には外国籍の人たちがたくさん住んでいるし、これからも人々は世界中から日本に来るでしょう。そのような状況に対応するために、視野を日本だけでなく、世界に広げて現状を見つめなおす。それは行政や自治体だけでなく、僕が長年従事してきた介護業界にも求められることだと思います。
誰もが”尊厳”を感じられる社会へ
これからはHARAPANでインドネシア語講座や、インドネシア料理教室などを開いていきたいですね。日本では主に”学ぶ”立場である彼女たちが、地域の人たちに教えることで、彼女たちにある”尊厳”を感じてほしい。弊社は今”認知症の人たちの雇用”を検討していますが、それと同じです。誰かに自分の持っているスキルを提供することで、その人の尊厳は守られ、自信を持つようになるのですから。
誰もが自分の持つ能力を発揮してつながり合い、誰もが尊厳を感じながら生きられる – そのような社会を作るのが僕の夢です。
インドネシアカフェ HARAPAN
神奈川県横須賀市長井1丁目12-5(地図)
※最寄駅:京浜急行「三崎口」(バスで9分「小根岸」下車)
営業時間:11時~17時
定休日:なし
電話:080-3410-4600(嘉山さん)
関連リンク
HARAPANホームページ:harapancafe.hp.peraichi.com/
HARAPAN Facebookページ:facebook.com/Harapancafe
株式会社スマイル:smile-kaigo.net/