HOME >  【インタビュー:多文化をチカラに⑭】ミヤベ ヴィクトリアさん(貿易商社・食品専門店経営者)

【インタビュー:多文化をチカラに⑭】ミヤベ ヴィクトリアさん(貿易商社・食品専門店経営者)2023.02.24 | 

My Eyes Tokyoの協力のもと、日本で活躍する外国にルーツを持つ方々へのインタビューを紹介していきます。
https://www.myeyestokyo.jp/60531


母国のことを気にならないはずはない。それでも私は前を向いて、明日のために生きていかなくてはならないのです。

約1年前、ロシアとウクライナとの間に戦争が起きた直後、ある店がその余波を受けました。東京・銀座にある食料専門店「赤の広場」。その店の立て看板が、何者かにより壊されたのです。当時、多くのメディアで報道されました。

この事件を受け、店側はやるせない思いを吐露しながらも、平和への願いを伝えました。

「ロシアの食品を扱っているという理由からでしょうか。店名のせいでしょうか・・・。(中略)
私たちは日本とウクライナ、ロシア、その他の国々との架け橋になりたいという気持ちで働いています。
早く両国に平和が訪れて、お互いの国が仲良くなることを心から望んでいます。
そして、祖国の人々に笑顔が戻ることを願っています」
(2022年3月2日 ロシア食品専門店 “VictoriaShop” Twitterより

この事件から間もなく1年が経とうとしている今。情勢は全く変わっていません。「赤の広場」店主であるミヤベ ヴィクトリアさんは、ウクライナから日本に至る自身の歩みに触れる一方、昨年以降に話が及ぶと、母国に思いを寄せながらも日本で必死に生きていかなくてはならない自身の、身を引き裂かれるような心情を、声を震わせながら語りました。

ユーラシアの味を日本の食卓へ
弊社が経営している食品専門店「赤の広場」は2年前、2021年2月にオープンしました。ロシアやウクライナ、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、ベラルーシ、アルメニアといったユーラシア諸国の食材を、主にロシア経由で輸入し、販売しています。私が生まれ育った旧ソ連の中心地であり、ロシア語で元々”美しい”という意味を持つ”赤”という言葉を冠した”赤の広場”を店に名付けました。

最近輸入が増えているのは、ウズベキスタンやカザフスタン、アルメニアの商品です。特にアルメニアの野菜のジャムは味が濃厚で香りも良く、他のどのジャムと比べてもアルメニアのジャムが一番だと思います。

逆にロシア商品の輸入は減っています。開戦前は月に3~4回にわたり輸入しており、それに伴い新商品も続々入荷していましたが、開戦後は3~4ヶ月に1回程度しか船での輸入ができなくなりました。ロシアの食べ物が好きなお客様は多く、特にカッテージチーズや、チーズをチョコレートでコーティングした”スィローク”などが人気です。今はそれらの輸入を一旦お休みしていますが、空路での輸入で少しずつ入荷を増やすことを考えています。他にも当店でしか取り扱っていない商品がありますし、それらの商品を心待ちにするお客様がいらっしゃいます。

私たちはこれからも、まだ日本で知られていない美味しいものを紹介してまいりますので、ぜひご期待いただければと思います。

体は日本 心はウクライナ
私の日本とのつながりは、大学時代にさかのぼります。友人が開いたお正月のパーティーに参加した時、そこに日本人女性が偶然いたのです。今はその内容を覚えていませんが、彼女が教えてくれた日本の姿に私は”未来”を感じ、憧れました。そして2000年、私は日本へと渡りました。来日後に日本人男性をご紹介いただき、私はその人と結婚しました。

来日後の約3年間は、家族や友人が恋しく、半年に1回程度ウクライナに帰り、3ヶ月間滞在して日本に戻るという生活を送っていました。日本に来てから3~4年くらいが、外国人にとって一番苦しいですね。当時の自分は、気持ちはウクライナに置いてきたままで、体だけが日本にあるような状況。その後は年に1回や2年に1回という頻度に落ち着きました。

私が最後にウクライナに戻ったのは、東日本大震災が起きた時です。私は3人姉妹の末っ子ですが、当時ロシアのシベリアに住んでいた一番上の姉が私のことを心配するあまり、彼女の血圧が220まで上がってしまいました。そのため私は、ウクライナ政府が用意した飛行機で母国に戻り、そこからシベリアの姉やウクライナにいる家族に会いに行きました。

事業に影響を与えた”紛争”
来日後の私のキャリアは、モデルとしてスタートしました。その活動をしている間に他の外国人モデルや芸能事務所などとのネットワークを構築。その後離婚をし、誰にも頼らず生きていくという選択を余儀なくされた私は、もともと自分で事業を始めたいと考えていたため、2006年に起業しました。経験を活かしてモデル派遣業から出発し、日本のグローバル企業とも取引をしていましたが、ある有名タレントの不祥事の報道に触れ、タレントマネジメント事業に潜むリスクを察知して撤退。よりリスクが少ない”モノ”を扱うビジネスがしたいと思い、2008年頃に輸入業に方向転換しました。

当初は私が育ったドネツクにあるチョコレート会社から、シュガーフリーチョコレートを輸入。私が故郷に帰った時、おみやげとして購入したそのチョコが日本の人たちに喜ばれた経験から「きっと上手くいく!」と考えたのです。

その読みは当たり、売上は順調に伸びていきました。しかし2014年に起きたウクライナ紛争によりその会社の工場が被害を受けたため、輸入元をロシアに変更することに。ちょうど日本のお客様から「ロシアのジャムも欲しい」などのご要望をいただいていたこともあり、ロシアの食料品の輸入に踏み切りました。

世界一の繁華街で店を持つ
輸入元だったジャム会社から、ロシア国内の他の食品会社をご紹介いただき、穀物や菓子、瓶詰や缶詰などのロシア食材を輸入。やがてタジキスタンやカザフスタン、ウズベキスタン、ベラルーシ、アルメニアなど、他の旧ソ連諸国からの様々な食材もロシア経由で入荷するようになりました。その卸先として大手旅行代理店がクライアントに。彼らが発行するお土産通販雑誌に、弊社が扱うロシア商品を紹介するコーナーを設けさせていただくまでになったのです。一方で一般のお客様に直接リーチするために、楽天やAmazonに”ヴィクトリアショップ”を開店。売上は徐々に伸びていきました。

卸売りは順調でしたが、やがて取引先に向けて私たちの商品をお見せするショールームのような場所を求めるようになりました。また一般のお客様からも「インターネットではなく店で商品を買いたい」という声を聞くように。そんな折に取引先の一つが場所をご提供下さり、2018年6月にリアル店舗をオープンしました。場所は京都、同年12月までの期間限定でしたが、多くのお客様にお越しいただき、実際の店でも勝負できることを確信しました。

私は都内、それも私が長い間住んでいる中央区内で場所を探し、約2年半前に現在の場所を確保。こうして2021年2月、ついに銀座1丁目で「赤の広場」を開店しました。その情報が口コミで広がり、開店当初からたくさんのお客様にお越しいただきました。

それでも私は前を向いて歩く
店の経営が順調に進むことを期待しましたが、開店から1年後、戦争が勃発。店に嫌がらせの電話がかかってきたり、当店の立て看板が何者かに壊されるなど辛い目に遭いました。多くのメディアから取材を受け、また私たちもメディアで母国の現状や今後の行方を追いました。でも昨年(2022年)11月を境に、私たちは一切の情報を遮断しています。

もちろん母国が戦争に巻き込まれているのですから、気にならないはずがありません。心身共に力を削がれる思いをしました。しかし私たちも、戦争により大きな打撃を受け、卸売りを復活させるなど事業を再構築する必要に迫られ、そのための商品確保に走らなくてはならない。しかも日本から物品を輸入する私たちは円安に悩まされ、その上戦争の影響で日本への送料が倍増。それらが全て商品価格に反映されてしまうから、輸入に対してとても慎重になる。実際に商品の輸入価格は高騰しています。

このような状況を乗り切るために、私たちは昨日という過去の”尻尾”に捉われずに事業に集中する。そして必死に働いて明日の売上を作らなければならないのです。

ヴィクトリアさんにとって、日本って何ですか?
”自分の国”ですね。
「私が愛する日本の人たちに、ウクライナやロシアなど旧ソ連の文化を伝えたい」という思いで、これまで約20年にわたり事業をしてきました。他にも日本には、同じように旧ソ連諸国の文化を伝える会社や機関がありますが、私たちは”食”で伝えたいという思いを持ち続けています。

「赤の広場」にしか無い食材がたくさんあります。ぜひ日本の皆さんに、この店で新しい発見を楽しんでいただけたら嬉しいです。

赤の広場

東京都中央区銀座1-20-14 銀座NKビル1階(地図
※最寄駅:東京メトロ有楽町線「銀座一丁目」より徒歩3分/都営浅草線「宝町」より徒歩3分
営業時間:平日 11:00~19:00/土・日・祝日 11:00~18:00

ヴィクトリアさん関連リンク
赤の広場
公式サイト:victoriashop.jp/
Twitter:twitter.com/victoriashop_ru

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