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【インタビュー:多文化をチカラに⑯】秋元 安紗美さん(宅地建物取引士/外国人向け部屋探しサポーター)2023.03.06 |
My Eyes Tokyoの協力のもと、日本で多文化共生に取り組む方々へのインタビューを紹介していきます。
https://www.myeyestokyo.jp/60840
”日本に外国人がいるのは当たり前””国際カップルが日本にいるのも当たり前”という空気が生まれることを願っています。
まだコロナの存在を誰も知らなかった2018年11月、私たちは国内外にその名が知られる”小江戸”川越で訪日観光客をインタビューを敢行(※記事はこちら)。そこで出会った外国人の一人は、ある日本人と一緒に川越観光を楽しんでいました。その人が今回ご紹介する秋元安紗美さんです。
私たちの活動に興味を示した秋元さんとは、その後も何度か連絡を取り合いました。そして出会いから約4年経った2023年1月、私たちは偶然、SNSで秋元さんのブログを目にします。
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「私自身、海外生活をはじめたとき、全く英語は話せませんでしたが、
1. 家を借りること
2. 携帯電話を契約すること
3. 仕事をすること
に不便はありませんでした。少なくとも拒絶された経験はありません。
ただ、悲しいことに日本に住む外国人はそうもいかないのです。」
(2023年1月4日 note『Aikagi Inc. 秋元安紗美の自己紹介』より)
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このような書き出しで始まる彼女自身の体験談に綴られた、私たちの予想を超える実状。そしてその出来事をきっかけに、事業を立ち上げ独立したことが語られていました。
「日本って、差別のある国なんだ・・・と本当に悲しくなりました。」という言葉で締められた秋元さんのブログ。私たちも悲しみとやるせなさを感じつつ、その状況を変えようと立ち上がった彼女の心意気に触れたいと思い、インタビューを申し込みました。
このあと記事を読み進めていただく前に、まずはこちらで秋元さんの魂の叫びをお聞きください!
自分の存在を否定される人々
私は日本に住んでいる、日本語が話せない外国人が家または部屋を借りる際の各種サポートを行っています。これまで英語圏出身者を中心に延べ100人以上の日本在住外国人の窓口となり、部屋の紹介から内覧、契約に至るまで行ってきました。不動産会社に勤務していた経歴、宅地建物取引士(宅建)資格を保持していること、海外経験があること、そして何よりもアメリカ人で日本語がほとんど話せない私のパートナーが部屋探しにとても苦労した経験がもとになっています。
外国人の名義で部屋を借りようとして、不動産会社から断られる – そのような話は皆さんも聞いたことがあるかもしれません。彼も同じような目に何度も遭ったため、希望する部屋を日本国籍を持つ私の名義で借りようとしました。しかし同居人がアメリカ人だという理由で、大家さんが断ってきたのです。たとえ日本語が理解できなくても、彼は簡単な単語は分かります。不動産会社のスタッフさんが大家さんと電話で話している時に発する「ダメなんですか・・・」とか、彼らが私たちにおっしゃる「ごめんなさい!」という言葉で、彼も「理由は分からないけど、拒絶されたのだ」と悟る。そのようなことが頻繁に起きました。自分の存在を否定されたような気持ちになってもおかしくないでしょう。
この出来事により、外国人が日本社会で直面する高い障壁が今なお多く存在することを痛感しました。一方で私自身、20代の頃にニュージーランドとカナダで合計3年ほど生活しましたが、部屋を借りる時の苦労はほとんどなく、外国人としての暮らしにくさもほぼ感じることなく – ちょっとした人種差別は経験しましたが – 海外生活を謳歌しました。だからこそ、私のパートナーへの申し訳なさがこみ上げてきたのです。
”英語力ゼロ”は英語圏で受け入れられるか?
大学を卒業し、マンション投資やオフィス移転を扱う不動産会社で営業を担当。パワハラやモラハラが蔓延する社内環境や、24時間365日絶えず顧客から連絡が来る生活に疲れ、将来への希望を見失いそうになっていました。そんな頃、小学生時代からの親友が「仕事を辞めてワーキングホリデーでオーストラリアに行くんだ」と私に言いました。「面白そう!」と思った私は、隣国のニュージーランドへ、同じくワーキングホリデーで行くことを決めました。
しかしここで問題が。当時の私は、アルファベットのAからZまでようやく言える程度で、会話力はゼロに等しかったのです。
そこで私は、ニュージーランドに渡る前に、フィリピンのセブ島にある英会話学校で3ヶ月間、全授業プライベートレッスンで集中的に勉強。その後ニュージーランド最大の都市オークランドに着いてからも、主に南米から来た人たちと共に学校で半年間英語を学びました。
オークランドでは、ある家に間借りしていました。借りる際の手続きは非常に簡単で、パスポートのコピーをホストファミリーに渡した程度です。英語力がほとんど無かった私を、良くぞ受け入れてくれたと思います。
私のホストはチェコ人のお父さんとオーストラリア人のお母さん、その息子と娘という4人家族でした。私が学校から帰宅した後はその人たちと会話。お母さんから頼まれて息子さんに読み聞かせをし、発音について彼から容赦ないダメ出しが(笑)一緒に住んでいたルームメイトのブラジル人女性と一緒に遊んだり、お母さんやルームメイトとガールズトークを楽しんだり、一家総出で旅行に行ったり、お母さんが運営していたホームステイ事業を手伝ったりしながら、私は”生きた英語”を吸収していきました。やがて自分の英語に自信が持てるようになった頃、私は使ったお金を取り戻すために(笑)当時住んでいた家の目の前にあった日本食レストランで働きました。
「○○へ帰れ!」
1年間のニュージーランド生活が終わりを迎える頃。「まだ日本に帰りたくない!」と思った私は、ワーキングホリデービザを申請できる英語圏諸国の中で、ニュージーランドとは全く環境が違う場所に行くことを考えました。その先にたどり着いたのがカナダのバンクーバーです。そこでもルームシェアをしていましたが、一緒に住んでいたのは日本人の同世代の女性たち。当時働いていたカフェは、日本語が一切通じず、英語でしかコミュニケーションができなかったから、プライベートでは日本語を話したかったのです。バンクーバーではニュージーランドに住んでいた頃とは違い”はっちゃける”ことなく、大人しく生活していました(笑)
バンクーバーは一般的なカナダのイメージとは異なり、中華系が多い街です。時折アジアヘイトが見られ、私がそのあおりを受けたことも。職場でお客さんから「お前は中国へ帰れ!」と言われたり「お前が運んできたものなんか食えるか!」と言われて、サーブした品物を突き返されたりしました。中華系の店長が私を守ってくれたこともあり、あまり辛いとは思わず「こういうことがあるんだ」くらいに捉えていましたね(笑)
様々な人たちが交じり合い 支え合う
こうして約3年にわたる海外生活を経て日本へ帰国。外資系企業やベンチャー企業での勤務、本業に加えて副業を開始したりと様々な活動に取り組みました。そして昨年(2022年)8月に個人事業主として独立。そのきっかけとなったのが、アメリカ人パートナーとの部屋探しで直面した”差別”です。私にも似たような経験はありましたが、日本にも差別が存在することを改めて実感しました。だから私は、日々の生活に壁を感じている外国人にとって心許せる存在になりたいという思いから、屋号を”Aikagi(合鍵)Inc.”としました。
日本の不動産業界には、一度納めたら返金されない”礼金”、入居審査に1~2週間かかること、賃料の発生日を借主側で決められないことなど、他の国では見られない特有の風習があります。宅地建物取引士の資格を持ち、英語でのコミュニケーションが可能な私が、それらを海外から来た人たちに伝える役目を担いたい。実際に日本人に向けてTwitterで私の活動や英語学習のヒントなどを発信し、外国人に向けてInstagramで日本の不動産業界での習慣や、日本で生活する上で気をつけた方が良いことなどを発信しています。
ゆくゆくはコミュニティ化し”点から面へ”その支援を広げていきたいですね。一方、英語を勉強したい日本人にもコミュニティを開放し、彼らとのコミュニケーションを通じて”生きた言葉”を学ぶ機会を提供する。こうすることで外国人と日本人が交わり合い、理解し合い、支え合う環境を作りたいと思っています。
「日本に来てくれて嬉しい」と思える空気を
日本には、日本語が理解できる人だけがいるわけではありません。私のパートナーのように日本語がほとんど理解できない人や、日本語を話せても文字が読めない人など様々です。「日本で生活するなら、日本語でコミュニケーションができるように勉強すべきだ」という声も聞こえてきそうですが、彼のように英会話業界に在籍している人や、日本のテック企業に勤める外国人エンジニアなどは、各々の日本語能力ではなく英語スキルやITスキルが評価対象。しかも周囲に英語が話せる人たちが多いので、日本語を勉強する必要性が無いわけです。
そのような状況を私たちが理解し、また私たちが当たり前だと思っていることが彼らにとって当たり前では無いことにも理解を示せたら良いですね。一方でもちろん、海外出身者も日本の風習や文化を理解する必要がある。だからこそ、私はSNSで日本人と外国人双方に発信しています。
私は決して「皆が外国人と交流すべきだ」とか「誰もが英語を話せるようになるべきだ」とは思っていません。ただ”日本に外国人がいるのは当たり前””国際カップルが日本にいるのも当たり前”という空気が生まれることを願っているだけなのです。
外国人を”レアキャラ”扱いするのではなく「日本という国を選び、来てくれて嬉しい」と皆が思える – そんな寛容で柔らかな空気が生まれたら良いですね。
秋元さん関連リンク
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