HOME > 【インタビュー:多文化をチカラに㉞】白石エリンさん(起業家)
【インタビュー:多文化をチカラに㉞】白石エリンさん(起業家)2024.04.04 |
「女性が幸せ、みんなも幸せ」が実現し”戦争を防ぐ環境”が生まれる – 私が目指す未来です。
偶然にも、女性を支援する女性シリーズが続きます。今回ご紹介するのは、女性同士が何でも話し合え、情報交換ができるオンラインスペースを生み出した起業家、白石エリンさんです。
昨年、エリンさんから私たちのもとへ久しぶりにメッセージが届きました。私たちが約10年前に日本で出会った当時、ウクライナ出身のエリンさんの肩書はジャーナリスト。これまで複数の国に住んだご経験があり、少し前まではフランスに滞在していました。そして最近日本に帰国し、世界各地での自らの子育てのご経験をもとに、世界中の女性が自分たちの境遇や悩みなどについて話し合えるオンライン・ソーシャル・プラットフォーム、その名も「ProMaman」を立ち上げたと言うのです。
起業家としての一歩を踏み出したエリンさんに、私たちは祝福の意を込めてインタビューをさせていただくことにしました。
悩める女性たちのための電脳広場
私は、国籍や背景に関係なく利用できる、世界中の女性のための安全な日英バイリンガルのオンラインスペース「ProMaman」を運営しています。ここでは心に重くのしかかっていることを話し合ったり、オフィスや場所を越えて同僚の女性たちとつながったりすることができます。さらに、一日を生産的なものにしたり幸せな生活を送ったりする最高の方法を見つけることもできます。
ProMamanは企業の従業員間のコミュニケーションツールであるマイクロソフト”Viva”のようなソーシャル・ネットワークとも言えるかもしれません。しかしProMamanは、特に女性に自信を持たせたり力づけたりするためのもの。女性がディスカッションに参加したり、さまざまなトピックを投稿したり、自由に会話したりできるスペースを提供しています。ユーザーには匿名にするオプションがあり、節度を保ちつつ、望む範囲でプライバシーを確保することができます。
さらに、仕事をより簡単に、生活をよりハッピーにする便利なツールのライブラリーも用意。現在、私はバイリンガルのプロフェッショナルのディレクトリを作成していますが、これらのプロフェッショナルは様々な背景を持ち、バイリンガルやトリリンガルまでも揃っています。
日本、フランス、ウクライナなど、女性が直面する課題は万国共通です。キャリアアップ、子育て、職場での理解促進、新しい職場や街、国での友人作りなど、女性は常に自分たちの苦労を話し合ったり、重要なトピックに対する認識を高めたりする場を求めています。働く文化は多少違っても、人間は基本的に場所に関係なく同じです。だからこそ私は、ProMamanが日本だけでなく、世界中の女性を支援することを目指しているのです。
ジャーナリストの日々@日本
私は2007年からさまざまなメディアで記事を書いています。異文化や異業種について学ぶことが好きで、さまざまな社会問題にも関心があったという理由から、ジャーナリズムに情熱を注いできました。東日本大震災の被災地である宮城県石巻市などを取材した一方、GACKTさんやKAT-TUNなど日本の有名アーティストへのインタビューや、旅行関係での取材にも従事しました。
外国人ママ 世界で困難に直面
私は日本で夫と出会い、2人の子どもを出産。私は幸せを感じつつ、一方で仕事と母親業の両立の難しさから、キャリアを断念せざるを得なくなりました。
その後、私たちはフランスに移り住み、私はそこでもう2人、子どもを出産しました。日本の人口を増やすために、私は頑張りました!(笑)フランスで6年近く過ごした後、私たちは日本に帰ってきました。
日本では、仕事と育児の両立が難しい。多くの企業では、正社員はもちろん、派遣社員でさえ時間外労働を強いられます。保育園や幼稚園の定員は少ないことが多く、幼稚園の場合、お迎えの時間制限が厳しく、しかも費用が高い。またフランスなどと違い、ナニーを雇うための政府からの財政援助もありません。子どもにとってのおじいちゃんやおばあちゃんの多くは遠方に住んでいたり、高齢であったり、さらに外国籍となると短期観光ビザでしか合法的に来日できないため、育児への援助を常にお願いできるとは限りません。しかし子どもの有無にかかわらず、日本はジェンダーギャップ指数で世界146カ国中125位にランクされているのが事実。日本の女性はしばしば厳しい労働環境に直面し、昇進するのも困難です。しかし多くの人は、解雇などへの懸念から経営者層に様々な問題を伝えることを控えるため、多くの企業や組織は、自分たちが変化しなければならないことにすら気づいていないのかもしれません。
DEI(※ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン:多様性とアイデンティティを尊重し、かつ、公平な活躍機会が与えられている状態)の問題から、どうすれば毎朝をよりハッピーに迎えられるかといった日常的な問題まで、女性が助言を求めるためのオンライン”座談会”に特化した大規模なグローバル・プラットフォームは、残念ながら未だ存在しません。女性やママのためのオンラインフォーラムやグループは数多くあるものの、その多くは広告やスパム、荒らし、詐欺アカウントであふれています。一方で民間のグループはかなり小規模で、受け入れ基準が限られています(例えば○○業界の女性のみ、○歳の子どもを持つママのみ、など)。さらにそれらから勧められる専門家(心理学者、出産に関するアドバイスやサポートを行う女性など)のディレクトリや便利なツールのライブラリなど、女性向けに特化した機能が欠けていることが多く見受けられます。
このような要因から、私はこのような女性専用のソーシャルプラットフォームを自分自身の手で作ることにしたのです。
世界トップのアクセラレーター、企業、団体、政府が動く
当初、ProMamanは外国人ママのための情報源だと考えていました。しかし日本人の友人、特に女性の友人と再会したとき、彼女たちも同じような問題に直面していることに気づきました。ProMamanの構想は、フランスにいる間に具体化し始めましたが、日本に帰国してからは、より揺るぎないものになりました。同じような境遇の人たちと交流するうちに、すべての多忙な女性に向けたプラットフォームを作らなければならないという思いに駆られたのです。
ProMamanは現在、法人契約を提供しており、企業や団体がそれぞれの従業員を会員にすることを奨励しています。今後はフリーランサーや自営業者などを対象とした個人会員プランも展開する予定です。ProMamanを立ち上げたばかりの頃、私は世界的なアクセラレーターである500 Globalが愛知県と共同で運営するプログラムを見つけました。応募して面接を受けた結果、私は昨年(2023年)の8月末から10月末まで愛知県で行われるアクセラレーター・プログラムに採択されました。
昨年11月には、国連開発プロジェクトのソーシャル・イノベーション・チャレンジ日本大会(sdgs実行の加速を目指す若者向けエンパワメントプログラム “Youth Co:Lab”とシティ財団の共同開催)でファイナリストに。さらにProMamanは、JP-MIRAI(※国際協力機構が設立した”責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム”)や政府機関など、さまざまな民間団体や公的機関と提携してきました。これらからの支援を通じ、ProMamanは2023年11月の「インターナショナルジョブフェア東京」と2024年1月の「たま未来・産業フェア」に出展することができました。
ProMamanは、在日フランス商工会議所主催のコンテストおよび展示会「Tech4Good/Business Leaders Forum 2023」でAXA賞を受賞。この賞を受賞したことにより、ProMamanは日本のアクサ損害保険とのPoC(※Proof of Concept 概念実証:新たなアイデアやコンセプトの実現可能性、得られる効果などを検証すること)を行わせていただけることになったのです。今後私たちは、ProMamanの影響力を拡大し、世界中の女性に恩恵をもたらすオープンなエコシステムを構築するために、できるだけ多くの、とりわけ国際的に展開する組織や企業と協力していくべく動いていきたいと思います。
「女性が幸せ、みんなも幸せ」の実現を目指して
私の理想とする世界。そこでは、すべての女性の声が尊重されます。多くの場合、特に企業内では、個々人が反対意見を持っていたとしても、それを口にすることを控えているもの。その結果、非効率的なシステムがずっと続くことになります。しかし私には、すべての女性が自分のアイデアや考え、そして情熱を他と共有する力を与えられている未来が見えます。職場はこれらを認識し受け入れるだけでなく、それらに基づいて行動し、女性の同僚、さらには管理職とともに協力的に問題を解決するのが、私が理想とする状況です。
全ての女性はパートナーの理解を必要としています。夫やパートナーが自分の大切な女性をサポートできる環境を育むことで、社会は発展する – ProMamanはその実現に向けてお手伝いしたいと思います。私が実現したい「女性が幸せ、みんなも幸せ」は、個人的な関係においても仕事上の関係においても、効果的なコミュニケーションとつながりがあってこそのもの。多くの課題は、気づきと対話を通じて克服することができるのです。
互いに耳を傾け学び合い 戦争のない世界をつくる
今、世界では戦争が起きています。とても悲しいです。私の国、そして今紛争に巻き込まれている国々のことを思うと、胸が痛みます。なぜこれほど多くの苦しみや死、不幸が続くのか、私には理解できません。
私には4人の子どもがいますが、彼らが平和構築に貢献する大人に成長することを、私は心から願っています。
私は、いろいろな背景を持つ女性同士のつながりを育むことが、戦争を防ぐことにつながると信じています。私たちが人間性を持ち続け、子どもたちのためにより良い暮らしを望むことで、紛争の可能性を減らすことは可能です。戦争による暴力や死を心から望む人はいません。
いろいろな背景を持つ人々同士がつながることで、対話と議論が促され、最終的に紛争が減っていく世界を、私は想像しています。
エリンさんにとって、日本って何ですか?
日本を私の故郷のように思っています。ずっとここにいたいですね。
ただ、企業や政府の要職に占める女性の割合が限られているのを見ると、がっかりしてしまう。女性のCEOや経営者、政治家はほとんどいません。もっと女性を登用することで、日本は大きな利益を得ることができるはずです。
日本が世界で最も素晴らしい国であることを、より多くの女性が感じてくれたら嬉しい。私はProMamanを通じて、そのような思いを女性たちに持っていただくことに貢献したいと考えています。
エリンさん関連リンク
ProMaman:promaman.com/
※My Eyes Tokyoの協力のもと、日本で活躍する外国にルーツを持つ方々へのインタビューを紹介しています。
https://www.myeyestokyo.jp/62551