HOME >  朝鮮半島問題を見る視点①~イデオロギーとアイデンティティ~

朝鮮半島問題を見る視点①~イデオロギーとアイデンティティ~2018.12.25 | 

 11月29日に韓国の最高裁が元徴用工らの訴訟で日本企業に賠償を命じた判決を出しました。日本政府の見解としては、元徴用工の請求権問題は1965年の日韓請求権協定によって解決済みという立場であり、日本政府は強硬に抗議しました。
 また、2015年のいわゆる「慰安婦問題」に関する合意に基づいて設立された「和解・癒やし財団」を韓国が一方的に解散したこともあり、日韓関係は一段と冷え込んでいます。
 その一方で韓国の文在寅政権は北朝鮮に対する融和政策を急速に進めています。10月にはヨーロッパを文大統領が歴訪し、各国首脳に北朝鮮への制裁緩和要請をしたと報道されています。

 もともと、朝鮮半島は冷戦構造が残る最後の地域です。冷戦とは自由民主主義か共産主義かという「イデオロギー(理念・価値観)」を中心とした戦いと言えます。そのイデオロギーの違いを、文在寅政権は「同じ朝鮮民族なのだ」という「アイデンティティ(一体性)」をもって乗り越えようとしているようです。
 ちなみに、沖縄県知事選で玉城デニー現知事が使ったスローガンも「イデオロギーよりアイデンティティ」でした。
「オール沖縄は、イデオロギーではなくアイデンティティだ。ウチナーンチュ(沖縄の人)が歴史や文化や自然、自分たちの暮らしを見つめた時に、一つになれるものを求めて政治を展開していこう」ということです。
 https://www.asahi.com/articles/ASL8N6VN3L8NUTFK014.html
 
 これらの動きは一見、コンフリクト(対立)を乗り越える新しい動きのように見えます。
 しかし、このようなアイデンティティを強調するアプローチは大きな危険性もあります。なぜなら歴史的に見て、ある集団の結束力を強めるための最も有効な方法は、その集団の外部に「共通の敵」を作ることでした。
 かなり大雑把に言うと、それがアイデンティティを共有する集団、例えば民族や宗教の対立を生み出すメカニズムなのです。1993年に米国の国際政治学者のサミュエル・ハンチントンが『文明の衝突』という論文の中で、冷戦終結後はこのような民族・宗教単位の紛争が多くなるだろうと警鐘を鳴らしました。
 実際、2001年の米国同時多発テロ、いわゆる「イスラム国」の問題、そして近年の移民をめぐる排外主義や自国(民)ファーストの考え方の高まりなど、「アイデンティティ」をベースとしたコンフリクトが増えています。

 朝鮮半島問題に話を戻せば、韓国と北朝鮮が「朝鮮民族」としてのアイデンティティを強調する際に、うってつけの「共通敵」が日本ということになります。

 特に来年は1919年の三・一独立運動から100周年という節目の年です。日本人から見れば、これを機にどんな反日プロパガンダの嵐が吹き荒れるのか…と暗たんたる気持ちになるかもしれません。
 しかし、そもそもこの三・一独立運動とは何だったのでしょうか?一般的に「抗日運動」としてだけ捉えられているこの運動について、次回はもう少し掘り下げていきます。

前のページへは、ブラウザの戻るボタンでお戻りください。
このページのトップへ