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アイデンティティは紛争の原因なのか?2020.01.25 |
皆さん、『サピエンス全史』という本をご存知ですか?
世界的なペストセラーで、ビル・ゲイツやザッカーバーグの推薦文が載った帯の本を本屋で見かけた方も多いのではないでしょうか。筆者のユヴァル・ノア・ハラリはイスラエル人で、2018年のダボス会議で基調講演も行いました。現在の代表的な知識人と言えるでしょう。
そんなハラリの最新刊が『21Lessons~21世紀の人類のための21の思考』。サピエンス全史は「人類の通史」だったのですが、これは現在の人類が直面している課題を掘り下げた本です。
その中で宗教やアイデンティティに触れたところを紹介していきます。
まずハラリは人類が現在直面する最大の課題を以下の3つに整理しています。
①技術的破壊
→AIとバイオテクノロジーの飛躍的な発展が引き起こす格差やデータの一元的な管理によるリスク
②環境破壊
③核戦争
それを前提として、以下いくつか引用していきます。
たとえイスラム教やヒンドゥー教やキリスト教は現代経済の建物を覆う色鮮やかな装飾であるにしても、人はしばしばその装飾と一体感を覚えるし、人びとのアイデンティティというものは、歴史にとってきわめて重要な力となる。人間の力は集団の協力を拠り所としており、集団の協力は集団のアイデンティティを作り出すことに依存しており、どんな集団のアイデンティティの基盤も虚構の物語であって、科学的事実ではなく、経済的な必要性でさえない。
だから二一世紀には、宗教は雨をもたらさず、病気を治さず、爆弾を製造しないが、「私たち」とは誰かや「彼ら」とは誰か、誰を治療すべきか、誰を爆撃するべきかを決めることになる。
したがって、テクノロジーがどのように発達しようと、宗教的なアイデンティティと儀式についての議論が新しいテクノロジーの使用に影響を与え続け、世界の火の海にする力を保持することが見込まれる。
核戦争や生態系の崩壊や技術的破壊といった問題は、グローバルなレベルでしか解決できない。その一方で、ナショナリズムと宗教が依然として、人間の文明を異なる、そして敵対することの多い陣営に分割している。グローバルな問題と、局地的なアイデンティティとのこの衝突は、EUという多文化による世界最大の実験に今つきまとう危機の中に表れている。
——–引用ここまで——–
このように、人類が抱える問題においてアイデンティティという要素が非常に大きな影響を与えるものであるとハラリは強調しています。
ハラリは『サピエンス全史』の中でも、ホモ・サピエンスだけが高度な文明を築くことができた最大の要素を、「虚構を作り、一人だけでなく集団でそれを信じる」ことで、大規模な集団による共同作業を可能にしたことだと指摘していました。
ここでいう「虚構」とは、「フィクション」や「物語」とも言い換えられますが、神話や伝説だけでなく、国家や貨幣、司法制度や株式会社といった現代の制度も含まれます。
つまり、集団に対する所属意識≒アイデンティティの問題というのは、それくらい私たちの社会にとって根源的・本質的なものなのです。