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安倍政権は、なぜここまで賛否が分かれたのか?2020.09.25 | 

 8月28日、安倍晋三前首相は持病の悪化を理由に辞意を表明。第二次政権発足から約7年8カ月にわたり政権を維持し、連続在任日数が佐藤栄作元首相を抜き歴代単独1位になったばかりでした。
 
 安倍政権が辞任を発表した後、立憲民主党の石垣のり子議員が安倍首相を、「大事な時に体を壊す癖がある危機管理能力のない人物」と批判し、京都精華大学の専任講師の白井聡氏は、安倍首相の辞任に際して涙を流したという松任谷由実さん(ユーミン)に対し、「荒井由実のまま夭折すべきだったね。本当に、醜態をさらすより、早く死んだほうがいいと思いますよ」とこき下ろしました。

 白井氏は「安倍政権の7年半余りとは、日本史上の汚点である」と朝日新聞系のウェブサイトに投稿していますが、安倍政権のみならず安倍政権を支持してきた国民に対しても怒りを爆発させており、率直に言って論評・論説というよりは単なる感情の表明になっています。
 以下、一部を引用します。
 https://webronza.asahi.com/politics/articles/2020082800004.html

 この政権が継続することができたのは、選挙で勝ち続けたためである。直近の世論調査が示す支持率は30%を越えており、この数字は極端に低いものではない。これを大幅に下回る支持率をマークした政権は片手では数え切れないほどあった。要するに、多くの日本人が安倍政権を支持してきたのである。

 この事実は、私にとって耐え難い苦痛であった。なぜなら、この支持者たちは私と同じ日本人、同胞なのだ。こうした感覚は、ほかの政権の執政時にはついぞ感じたことのなかったものだ。時々の政権に対して不満を感じ、「私は不支持だ」と感じていた時も、その支持者たちに対して嫌悪感を持つことはなかった。この7年間に味わった感覚は全く異なっている。

 数知れない隣人たちが安倍政権を支持しているという事実、私からすれば、単に政治的に支持できないのではなく、己の知性と倫理の基準からして絶対に許容できないものを多くの隣人が支持しているという事実は、低温火傷のようにジリジリと高まる不快感を与え続けた。隣人(少なくともその30%)に対して敬意を持って暮らすことができないということがいかに不幸であるか、このことをこの7年余りで私は嫌というほど思い知らされた。

 ではなぜ、安倍政権はここまで一部の左派・リベラルといった人たちに嫌われているのかについて今回は考えてみたいと思います。
 特定秘密保護法や集団的自衛権の行使を可能とする安保法制、テロ等準備罪(共謀罪)の制定など、確かに安倍政権はリベラルが嫌悪するような政策を進めてきました。2015年の安保法制の改正の際は、シールズのデモをはじめ反対運動が大いに盛り上がったことを記憶されている方も多いでしょう。
 政権の最後の方には、「モリカケ」や、桜を見る会の私物化、公文書の破棄などいわゆる「手続き的公正さ」を軽視した問題も噴出しました。
 
 ただその一方で、政権が一定の支持率を維持し、国政選挙では自民党が勝ち続けたという事実もあります。
その背景にあるのは、(アベノミクスの効果かどうかはさておき)景気が悪くなく、特に雇用が守られた、つまりは「何とか食える」という安定感でした。これが特に若者世代の政権支持率が高かった理由と言われています。
 自民党が30%強の政党支持率を維持する反面で、野党が集合離散を繰り返すことで、「野党に任せたら不安」というのも大きかったでしょう。
 また、安倍政権は保守的なイメージとは裏腹に、最低賃金の引上げ、働き方改革など経済政策はリベラル的でした。
全体的に言うと、安倍政権を支持する理由が「他にいい人がいないから」という割合が高いことがよく指摘されるように、消極的に支持する人が多かったというのが安倍政権だったと言えるでしょう。

 ではなぜ、安倍前首相をここまで嫌いな人たちが出てきたのでしょうか?安倍前首相の保守的な面を見て熱烈に支持する人たちもいます。賛否がなぜこんなに分かれるのかというと、結論から言うとSNSの普及、特に「怒りの増幅装置」とも言えるTwitterです。
 ネットにおいては、「①安倍前首相を批判すると許さない人(いわゆるネトウヨ的な人)」と「②安倍前首相を批判しないと許さない人(いわゆるサヨク的な人)」という両サイドの人たちの声がとても大きいため、真ん中の人が意見を表明しにくい言論空間になっています。

 ①と②の人たちが日々ネットの中でお互いを殴り合い、それぞれのクラスター(集団)内での結束を強めつつ、主張をさらに先鋭化させていったこの8年間だったと言えるのではないでしょうか。SNSが普及した時期と、トランプ大統領ほどではないにしろキャラの強い安倍前首相(左翼の宿敵・岸信介の孫!)という存在が重なった結果、両サイドの人たちが過激化・カルト化していったわけです。
 この辺りは、アイデンティティ・ベースド・コンフリクトと言っても差し支えなさそうです。「親アベ」か「反アベ」がそれぞれアイデンティティの拠り所になっているわけですから。

 安倍政権が退陣を表明したら支持率が爆上げし、後継の菅政権が6割以上の支持率でスタートするなど、リベラル側からすると「ぐぬぬ」という感じですが、新型コロナウイルス対策をはじめ問題山積の現状の中で、菅政権には頑張ってかじ取りしていっていただきたいものです。

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