HOME >  パンがなければ、ケーキを食べればいいのに?

パンがなければ、ケーキを食べればいいのに?2021.12.25 | 

英国のグラスゴーで行われた第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が現地時間11月13日(日程を一日延長)に終了しました。
2019年くらいから始まった世界的な脱炭素の潮流もあり、日本でも昨年菅前首相が「2050年のカーボンニュートラル(実質温室効果ガス排出ゼロ)」を宣言。昨年はコロナ禍でCOP自体が開催されませんでしたが、今回は非常に注目度が高かったと言えるでしょう。

今回のCOPで一番話題になったのは石炭火力でした。当初の合意内容案は、石炭火力発電について「排出削減対策が取られていない石炭火力発電の段階的な廃止(phase out)のための努力を加速する」というものでしたが、インドが「廃止(phase out)」ではなく、「削減(phase down)」という表現に変更するように要求しました。
当然、EUや気候変動の影響を強く受ける島嶼国家は、「石炭に未来はない」といって反対したわけですが、COPの議長を務めた英国のビジネス・エネルギー・産業戦略大臣であるアロック・シャルマ氏(この方はインド出身)は、合意文書を作成することを優先し、声を詰まらせながらインドの提案を受け入れたそうです。

なぜインドが石炭火力発電の将来的な廃止に消極的なのでしょう?
インドでは今も2億人の人たちが電気なしで暮らし、室内における薪や木炭の煙で多くの健康被害が起きています。
有毒な燃料の屋内使用によって亡くなっている人の数は世界で年間400万人とも言われ、SDGsのゴール7にもありますが、安全でクリーンなエネルギー(電力)を普及させることは人々の健康を守るためにも、地球温暖化対策のためにも必要不可欠です。
https://sdgs-support.or.jp/journal/goal_07/

しかし、再生可能エネルギーは送電・蓄電などのインフラ整備も考えれば、発電コストがまだまだ高いわけです。その再生可能エネルギーを世界的に推進することに対して、アフリカ諸国などから「緑の植民地主義」だとの批判が上がっています。ウガンダのヨウェリ・ムセベニ大統領は、2050年カーボンニュートラルを今のような脱炭素方針で進めれば、「アフリカが貧困から脱却する道が阻まれる」と批判しました。

途上国から見れば先進国から、「パンがないなら、ケーキを食べればいいのに」(化石燃料なんか使わないで、再エネを使えばいいのに)と言われているような認識なのかもしれません。この辺りは、途上国だけでなく、先進国内においても、気候変動対策が何か「意識高い系」(余裕のある人の道楽もしくはPRの道具?)のように見られる傾向があるのと同じですね。

一方で、気候変動対策をもっと徹底するべきという人たちからは、今回のCOPに対して、「茶番だ」「実効性がない」という声も。2019年には本会議でスピーチしたグレタさんも今回は会議そのものには参加せず、外部からデモに参加して痛烈に批判しました。

ただ、当初から後退したとはいえ、成果文書に「石炭火力削減」が盛り込まれたのは画期的なことでした(特定のエネルギー源や発電方法に言及するのはCOPでは異例だそうです)。パリ協定の2度目標(産業革命前からの温度上昇を2度以内に抑える)ではなく、一歩進んで1.5度目標が共有されたこともあり、一定の成果はあったのではないかと思われます。

気候変動問題は単体で存在しているのではなく、他の課題と密接にかかわっています。
例えば今、世界的なエネルギー供給不足で日本でもガソリンの値段が上がっていますが、その背景には石油や天然ガスに対する投資の停滞があります。脱化石燃料のトレンドの中で、回収に時間がかかるこれらのプラントに投資するのはリスクが高く、投資を控えているわけです。しかし、エネルギー・電力不足になれば、ゴール8(経済成長)やゴール3(健康・医療)に大きな影響が出ます。
中国でも石炭火力発電所の稼働を減らしたことで、一時期電力危機的な状況になったのも記憶に新しいところです。
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=101410
今年の冬は日本でも電力供給がひっ迫するという予測もあります。
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6412878

この問題は、より総合的・複合的・俯瞰的に考えていく必要がありますね。

前のページへは、ブラウザの戻るボタンでお戻りください。
このページのトップへ